花氷*


 今日のお買い得品はこれ、今週通してはあれ。そんな放送が流されるスーパーの野菜売場で、ヴェイグはなんとも言えない空気を味わっていた。
「行きますよ」
「・・・はい、」
 そんなヴェイグに声をかけると、細い眼鏡を押し上げた赤目の男がカゴを装着済みのカートを差し出す。ヴェイグが思わずそれをつかんで、つかんでから納得いかなげに彼を見やった。
 ほら、早く。
 レタスの前に立った状態で、視線だけがヴェイグを急かす。カートを押して、ヴェイグはレタスの前に並んだ。
「・・・ジェイド、先生」
「なんですか?」
 一番新鮮なものを選んでいるらしいジェイドが振り返る。振り向いてから表情ですべてを悟ったのか、苦笑を見せた。
 レタスをカートに入れながら、
「私だって料理くらいしますよ」
 それに、もう一つはあなたが気にすることではありませんよ。
 あまりにも不健康な生活をしていると聞いて、動いたのは自分だった。料理ができないわけではなかろうに、最近面倒だという理由でしないという(のは本人から聞き出した)。昼食はこの年齢としては明らかに少ないおにぎり一つだとかそんなものだと保健室の教師に愚痴られた。
 そんなことを私に言われてもとか困った生徒ですねぇとか適当に返したものの、結局こうなっているのだから自分も大概この生徒を特別視しているとジェイドは思う。
 思わず漏らした苦笑に、ヴェイグが不思議そうな顔をした。
「なんでもありません」
 先ほど押しつけておいてなんだが、カートを手にして先を歩く。
 無表情と有名な彼だが、それなりにつきあいが長くなればその瞳からいくらかは読みとることができる。彼の感情を知ろうと思い、彼に無意識でも信頼されていれば、の話。仮説というよりは事実だが、それを認めるのもなんだか許したくはない。事実でも仮説でも彼に向ける感情は誤魔化せないということは、ジェイド自身がわかっているとはいえ。
 程なくして隣に・・・半歩後ろに並んだヴェイグと共に買い物を続ける。
 ふと耳に届いた騒がしい声に、二人は視線を動かした。
 見つけたのは、緑の頭。同じクラスで、なにかとヴェイグに声をかけてくる自称親友、ティトレイ・クロウが、自前の大声で独り言をいいながら食材を選んでいた。
「ティト、」
「おっと、こちらへ」
 迷惑になるぞ、と注意しようと口を開いたヴェイグを制す。
 ジェイドは片手にカート、片手にヴェイグの腕をとって脇の通路へと入った。文房具が並んでいる、食材を売っているスーパーには本来必要のないコーナー。なんて非効率で無駄なことをしているんだと思ったものである。
 どうして、こっちに?
 不思議そうな色を僅かに滲ませて見つめるヴェイグになんと言おうかしばし迷って。ふと浮かんだ些細ないたずら。
「せっかくのデートを邪魔されては困りますからね」
「デ・・・っ、!」
 それは冗談とも本気ともつかない色で。予想外の台詞に言葉を失い、口をぱくぱくと動かしているヴェイグを、ジェイドは興味深そうに見やる。
 これは珍しいものがみれましたね。こんな反応が返ってくるとは。
 思いながら口の端が笑みを刻んだ。そのまま俯いてしまったヴェイグの頭を撫でる。らしくない行為に、ヴェイグがこれまた珍しく頬を染めていたことには、幸か不幸か気づかなかった。

買い物に出かけました

(おや、どうかしましたか?)
(・・・いえ、別に)

  

  

たぶんどっちかというと不幸だよジェイド先生!(笑)
買い物に行くたびに考えていたネタ。カート押すジェイドとか相当似合わないと思う!w
ティトレイは友情出演。これはいいとか賞味期限がどうとか独り言をすごい勢いで言ってそうな気がしました
自称親友だけど別にヴェイグがティトレイを嫌いなわけではないよ!(笑)
どうしようか迷って学園もの的パロディにしてみた。ユーリさんはきっと新任の先生とか
年齢的にちょっと無理があるけどそこら辺は気にしてはいけないよね←
なにが一番気にしてはいけないかというとまさかのジェイド相手ということですw←
関係ないけどスーパーの配置はうちの近所を参考にしてみた。文房具はいらないと思うよ!
100918