花氷*


 低気圧の接近により局地的に強い雨が降るでしょう。
 そんな天気予報を出掛けに確認してから一時間弱。帰宅したユーリは、降られなかったことに安堵の溜息をついた。
 雨の予報は明日だったから、傘は持って出なかった。けれど出先の予報ではすでに天気は移り変わっていて、雨の予報は今日の夜から。最悪帰りなら濡れても構わないが、どちらかといわれれば濡れないにこしたことはない。
「・・・降ってきたな」
 部屋にいろいろ投げ出して、ふと気づいたら雨の音。未だ気温が高めのこの季節だから、雨でも窓は開けておきたい。
 思って窓に近づき、ユーリは目を見張った。
 ゲリラ豪雨。水が絶え間なく地面を叩き、光がなくても雨が視認できる。唯一救いどころは風がないところだろうか。風が強ければ確実に台風である。まっすぐに降ってくる雨は中に入り込むことはない。
 激しい雨音に驚いたのもあるが、ユーリの驚きはまた別のところにあった。
「バカか?」
 窓枠の向こうに見えたのは人影。こんな激しい雨の中、傘もなくしかし急いだ様子もなく歩いている。せめて走れよ、と思わず呟いた。
 電灯に照らされて、その姿がはっきりと映る。雨に打たれてくたりとした服と、同じように打たれて張りついた長い髪。その髪は夜に浮き上がるような白銀で、時たま手がその髪を寄せるのが見えた。
 ユーリはしばしそれを見つめて、やがて舌打ちを一つ。弾かれるように傘をつかむと玄関を出て、雨を気にすることなく走り出した。
「おい!そこの!」
 前を歩く人影に呼びかける。激しい雨音に声が届かないのか、反応はない。
 一度呼吸を入れて、ユーリはさらに呼びかけた。そこで雨に濡れてるヤツ!俯き加減だった頭がわずかに上がり、ゆっくりと振り返る。
 遠くのユーリを見つけて、小さく首を傾げた。
「雨に濡れるのが趣味なのか?」
「・・・いや、」
 ユーリは大股で近づき、不思議そうにこちらを見やる青年に皮肉を告げる。そんな趣味のヤツがいるとは思えない。というか、そうなら自分は限りなく無駄足である。
 青年はある意味予想通りにそれを否定して、それからじっとユーリを見つめた。
 頬に白銀が張りついてそこから水が流れ、同色の長い睫からぽたりぽたりと水滴がこぼれる。そんな細かいところまで凝視してしまってから、彼が用件を聞いていることに気づいた。
 口で言えよと思いつつも、たぶん目は口ほどにものを言うタイプなんだろうと言わずにおいた。
「使えよ。どうせいらないヤツだし」
 どのくらいで家に帰りつくのか知らねえけど、ないよりマシだろ。
 続けると青年は幾度か目を瞬かせる。そのたびに落ちる水滴が頬を伝った。
「だが、それは」
「そういうことは言うのな」
 眉を寄せた青年が口を開くが、言い終わる前に言葉を重ねる。いっぱしに反論しやがって。
 ユーリは溜息をついて、傘を押しつけた。冷たくなった手に握らせて、
「いいから持ってけよ。そんなに気になるなら返しに来い」
「・・・すまない」
 傘とユーリとを見比べた青年が、律儀に頭を下げた。

雨降りと傘

(名前?ユーリだ。ユーリ・ローウェル)
(ユーリ、ローウェル・・・。必ず、返しに行く)
(・・・別に、いいのにな)

  

  

ほっとけない病発症のユーリさん。
この前突然降ってきた雨が元ネタ。というかむしろ半分実話です
しらない人が傘をくれました(9/15)現代にも優しい人がいたものですね・・・!
ただし名前とか聞いてないから返しにいけないんだけれども
ゲリラ豪雨の破壊力は凄まじいです。濡れるとかそういうレベルじゃないよ目が開けられないんだぜ!w
ところでユーリさんの名前は聞いたのに自分では名乗ってないヴェイグ
人の名前を聞くときはまず自分からって言うよね!←
結局ユーリさんは一目惚れだよ!あんなにきれいな子が雨に濡れて歩いてたらほっとけないと思います
あとたぶんヴェイグは諦めてました。いまさら走っても大して変わらないからいいやみたいな←
100922

・・・というのを引っ張り出してきました
いろんなところに書いてるおかげで書いた順に出せないよね・・・!