花氷*


「ヴェイグ」
「・・・?」
 呼び止められて振り返ったヴェイグは、珍しい人物を見る。
 グランマニエの軍人、ジェイド。科学者である彼と、自分にはこれと言った接点はない。互いのことは知っているものの、顔を合わせて言葉をかけるのは初めて、ではないだろうか。
 無表情に硝子越しの赤い瞳を見つめていると、ジェイドが小さく笑った。
「私の顔になにかついていますか?」
「・・・いや、」
 すまない、と謝るヴェイグに、いえ構いませんよ、とジェイドはあっさり返す。食堂でたまたま見かけたときルークがひどく怒られていたから、気に入らないことに関しては厳しいものだと思っていた。けれども機嫌を損ねた様子はない。
 今お暇ですか、と尋ねてきたジェイドに頷くと、依頼が一つ。研究に使う素材を一緒に取りに行っていただきたいのです。
 彼ほどの実力者に護衛がいるのだろうか。やっぱり無表情のまま考えているヴェイグを気にした風もなく、ジェイドはどうです?とヴェイグをうかがった。
「俺でよければ、構わないが」
「それは助かります」
 そうと決まれば、とジェイドはヴェイグの腕をとり、さっさと船を下りた。
 船はいつの間にか採取場所に着いている。なにも言わずに出てきたということは、チャットには既に話を通してあったらしい。
 行かせる気満々じゃねえか、と誰かがいれば言っただろうが、生憎その場には誰もいなかった。

 

「いやー、助かりました」
 結局大した強敵でもない魔物を二桁を越えるほどに退けて、二人は船に帰ってきた。素材はしっかり手に入れられたらしく、ジェイドが心なしか上機嫌である。
 貴方のおかげです、と大げさに言われても困るのだが。(ヴェイグ的にはたいした働きはしていない、と思う)
「報酬にピーチパイでもいかがです?」
「もらおう」
 いつもの彼からは出てこない素早さで答えが返ってきて、ジェイドは眼鏡の奥で目を細めた。ピーチパイに関しては欲望に忠実な子だ、と頬杖をつきながら思う。
 さあどうぞ、と予め作ってもらっておいたピーチパイをフォークとともに持ってくる。普段のサイズよりも少々小さめのピーチパイ。ナイフも取り分ける皿もないことに、ヴェイグは小さく首を傾げた。
「いいんですよ、貴方のために作っていただいたものですから」
「・・・いいのか?」
 今度は沈黙を挟んだ。
 大好きなピーチパイに関してでも、他人が関わると遠慮が生まれるらしい。小さめに作ってもらったのは、一人で食べきれるようにしたからである。
 とは言わずに、頷いて皿をヴェイグの方へ押し出す。行儀は悪いが、食べる前だから良しとしておく。
 ヴェイグはもう一度沈黙を挟んでから、いただきます、と小さく言って手を合わせた。デザートフォークをパイに差し込むと、さく、という軽やかな音がする。
 口に入れたヴェイグが、うれしそうに笑った。
「っ!」
「ジェイド?」
「いえ、なんでもありません」
 どうした、と尋ねてくる表情には既に先ほどの笑みはない。とりあえず取り繕うと、ヴェイグは再びピーチパイに関心を移した。
 ジェイドはその彼を見やる。一口大に分けたパイを口に入れる度に緩む表情に、内心溜息をついた。
 まったく、私としたことが。初めて見た笑顔が脳裏を掠める。普段無表情だから、たまに見せる笑顔は貴重なのだ。そして破壊力抜群というのは、誰の言だったか。
 くだらない、そう思って聞き流した言葉を思い出しながら柔らかい表情を眺めていると、視線に気づいたヴェイグが顔を上げた。
「私は甘いものはあまり得意ではないんです」
 ですから遠慮なく。
 本当に一人で食べてしまっていいのか?と視線で尋ねてくるヴェイグに答え、半分ほどなくなったピーチパイを示す。しばらくパイに目を落とし、それからじっとジェイドを見つめた。
 ジェイドは小さく笑みを浮かべてみせる。ヴェイグはもう一度目を落とすと、フォークでパイをすくい上げる。
 そしてなにを思ったか、ジェイドの前にフォークを差し出した。
「甘いものが苦手でも、食べられると思う」
 つまり、食えと。そういうことですか。
 先ほど浮かべた笑みを意地で張り付けたまま、ジェイドはヴェイグを見やる。
 どうやらヴェイグはこの行為にこれといって疑問を感じていないらしい。パイが落ちないように気をつけながら、ジェイドをじっと見つめている。
 このまま見つめ合っているのも楽しいが、あまり時間をかけると彼は引いてしまいそうだ。
 そんなわけで。
「では、お言葉に甘えましょうか」
 ジェイドはふと遠くに視線を投げてから、言って口を開けた。

予期せぬ行動

(私にとっても、彼にとっても)

  

  

ジェイヴェイ・・・ジェヴェイ?大佐とヴェイグ
ヴェイグには本当に深い意味はないと思います。ピーチパイがおいしいということを気づいてほしいみたいなw
あーんして、って行為として求められたらダメそう(笑)
一応海のときに顔は合わせている設定です意識ないけど←
ヴェイグの笑顔は貴重だと思うんだ。そんなわけで笑顔でオちるみんな
大佐は気に入った人はいじるかやさしくしてくれるかどっちかだと思うんですが
個人的にいじってる方が楽しいけどヴェイグをいじれない私は優しくしてくれる方を選びました
でもあの人ツンデレだからやっぱりいじる方だよねw
食堂の入り口に誰かいたようです。誰だろうと衝撃が走るのは間違いないと思います(笑)
個人的にはユーリだけどもww
101004