花氷*


 今朝からキッチンにこもりきりのユーリに、ヴェイグは首を傾げた。
 朝食までは一緒にとったものの、あと片づけを手伝うといってヴェイグの分の食器を重ねてキッチンに入ったまま、今まで出てきていないらしい。
 ヴェイグはディセンダーにつきあって依頼をこなしに出かけていたのでわからないのだが。
「クレア?」
 入りづらくて入れない、というリッドたちを後目に食堂の戸を叩く。中を窺うと、いつもいるはずの少女たちが不在で。幼なじみの名を呼んでみる。代わりに顔を出したのはユーリだった。
「よ、おかえり」
「・・・ただいま」
 ごくごく自然に挨拶してくるユーリに返す。
 ちょっと待ってな。言って再び引っ込んだユーリに反論することなく腰を下ろした。
 やがて出てきたユーリが湯気の立つコーヒーとともに持ってきたものは。
「・・・ピーチパイ?」
 首を傾げるヴェイグに頷いて、香ばしく焼けたピーチパイを目の前に置いた。ふわりと甘い香りが漂ってくる。
 ヴェイグが心なしか目を輝かせているのが見て取れた。
 イスを引いて隣に座ったユーリは、ピーチパイに直接フォークを入れる。さくさくという音を立てるのにいい出来だなと満足し、フォークをそのまま隣へ。
「あーん」
「・・・っ?」
 目を見開いたヴェイグの口元にフォークを差し出したまま、ユーリは再びその台詞を口にする。困り顔になっていくヴェイグを見やった。
 焼きたてのピーチパイ。パイ生地はさくさくで、中のフィリングがとろりとしている。
 ほら、落ちちまうぞ。ユーリの言葉に、ヴェイグがユーリからピーチパイに視線を移した。わずかにフォークを揺らしてみせる。
 長い逡巡の後、ヴェイグは控えめに口を開けた。さすがに声を出すだけの勇気はないらしい。
「うまいか?」
「・・・ああ」
 行為に対しての羞恥は残るものの、ヴェイグはその問いに頷く。
 ユーリとすれば聞かなくてもふわりと笑うその顔を見ればわかることだが。本人は無自覚のようだから困る。
 そりゃあよかった、と返してから、ユーリはいたずらに笑って次のピーチパイを差し出した。ユーリの思惑が見て取れて、ヴェイグは眉を寄せる。
 この大きさのピーチパイをすべてこうして食べさせる気なのだろうか。ユーリの作るピーチパイはおいしいけれど、羞恥で死ねる気がする。
「ユーリ・・・」
 途中で誰か来たら洒落にならない(くらい恥ずかしい)。だからさすがにやめてくれという思いを込めて名を呼ぶヴェイグにユーリはにやりと笑った。
「ダメだ。どろどろに甘やかすって決めたからな」
 言ったろ?お楽しみにって。
 ものすごく楽しそうなユーリに、ヴェイグはようやく一月前を思い出した。

たのしいのはどっち?

(この後もあるからな?)
(もう、十分だ・・・っ!)

  

  

確実に楽しいのはユーリさんですねわかります(笑)
やってることを想像するとものすごいにやにやするんですが、わたしの文章力じゃそれが全然伝わらない・・・←
ヴェイグがディセンダーにとられていたのでピーチパイ作りになりました
たぶんちょっと当てつけw一日フリーだったら朝からべたべたしてたと思います
この後はいろいろとご想像におまかせします(笑)
110309