花氷*


 南の島でバカンスを楽しんでいる(らしい)番人が帰ってきた。
 そんな話をパスカルから聞いて、アスベルはライオットピークを訪れていた。
 番人がいてもいなくても、この島の空気は変わらない。そもそも番人の元に辿り着く者がほとんどいないから、彼らの存在は夢にも近いのだろう。
「よし、行くか」
 腰の剣を軽く叩いて、アスベルは昇降機に乗り込んだ。
 ラムダを経てフォドラクイーンの件まで片づけてきた・・・つまりは世界を二度も救ったアスベルにとって、ここの魔物は早々手こずる相手ではなかった。階数を重ね、魔物を倒し、次は最上階。
 簡易的な台に乗ると、昇降機が動き始める。ガタン、と揺れた衝撃をやり過ごし、顔を上げて、アスベルは思わず叫んだ。
「リチャード!?」
 目に入ったのは長い銀髪―求めていた人物、ヴェイグ―と、風になびく金髪ーどこからどう見てもリチャードだ―の姿。
 リチャードも実力は確かだ。一人でも頂上に登るのはたやすい。たとえば二人が刃を交えているのなら納得もできようが、(それにしても国王が政務をほっぽりだしているのは問題だ)二人が行っているのは、
「アスベルもどうかな。お茶菓子もあるんだ」
 爽やかにすすめるリチャードの手にはティーカップ。なぜか設けられているテーブルの上には切り分けられたパイ。どこからどう見ても、お茶会だった。
 向かいに座るヴェイグは、心なしか困った表情を浮かべている。アスベルはうーん、と小さく漏らして二人のところへ近づいた。
 さあ座って、なんて言われるままに腰を下ろして。
「どうしてお茶会なんてしてるんだ?」
「マスク・ド・カーボンの話を聞かせてもらおうと思って」
「あぁ・・・」
 彼が天然なのか冗談なのか、限りなく判断に困るところである。
 ヴェイグが小さく溜息をついてアスベルを見やった。どうにかしてくれ、という視線。
 目は口ほどにものを言う、とはこういうことだろうな。
 思いながらアスベルは苦笑を返して、いそいそと手ずから紅茶を入れているリチャードを示した。
 なんというか、彼はこういう男なんだ。
「・・・挑戦に来たんじゃないのか」
「そうだった!」
 役に立たないと思われたのか(それはそれで悲しい)、自分でなんとかしようと一念発起したのか。
 流されそうになっていたアスベルはやや唐突な質問に我に返る。頷いて立ち上がり、ヴェイグは立てかけられた自らの剣をつかんだ。
 リチャードは二人ともがんばれ、と声をかけて再び紅茶に手を伸ばす。彼はほんとうにお茶をしに来ただけらしい。
 中央に向かって歩きながら、アスベルは乾いた笑いを漏らした。

予想外の訪問者

(ところで、バカンスはどこに行ったんだ?)
(・・・バカンス?)
(あれ、行ったってポワソンが)
(・・・・)

  

  

fに番人が出てこなかった不満を込めつつ
ヴェイグはバカンスには行かないと思いました。ていうかあのメンツじゃ行けない(笑)
そもそもポワソンの口調だとどこまでがほんとなのかわからないよねw
陛下は結構何度も来てると思います、自分で行かないと来てはくれないので
政務公務も元気に抜け出すよ!←
アス→ヴェイでリチャ→ヴェイを目指していた気がするんだけど気づいたらこんなことに・・・
110524