花氷*


 放課後の人気の少ない建物。ふと耳に届いた、微かなピアノの音色。
 ユーリは足を止めて、並ぶ窓を見やった。中庭からでは、どこの部屋かわからない。
 しばらく耳を傾けてから、音を探して歩きだした。
 中に入り、階段を上る。時折覗く教室に、まばらに他の生徒が残っているのが見えた。
「・・・まだ上か」
 ご苦労なことだな。ほとんどの教室にはピアノが備え付けられているのに、わざわざ上の階の教室を使っているなんて。
 ユーリは思いながら音を追いかける。かつん、かつん、という靴音だけが響いた。
 階段を三度ほど上ったところで、そのドアを見つける。
 なるほど、音が漏れていたのは防音のはずのドアがきちんと閉まっていなかったためらしい。
 上部の窓から中を窺う。中にいるのは一人。
 滑らかに鍵盤を叩くのに合わせて、美しい白銀が揺れていた。後ろ姿だけではどんな顔をしているのかわからないが、きっとこの音のような顔をしているはずだ。
 ゆったりと奏でられる旋律は、穏やかに心に入り込んで沁みていく。
 誰もを引きつける、そんな類のものではないけれど、柔らかくて優しい、静かな音楽。
 歌いたい。この音を紡ぎ出す、彼の曲を。
 そう思ったら、衝動的に動いていた。
「よぉ」
「!」
 勝手に入るぜ、そう続けながらユーリはわずかに開いていたドアの縁を掴んで中に入り込んだ。
 突然の他人の声に肩を揺らした彼が振り返る。海の色をした瞳が見開かれた。小さく低い声が呟く。
「・・・ユーリ、ローウェル・・・」
 ユーリは一つ瞬きをする。
 オレの名を知っているらしい。それなら、話は早い。
 ユーリはに、と笑みを浮かべてピアノに、・・・彼に近づいた。
 二人いればもう定員オーバーになる小さな練習室。座っている彼の顔を至近距離で見つめる。
 声こそあげないものの、瞳が雄弁に感情の揺れを表していた。ユーリはその白い顎を持ち上げ、
「おまえがほしい」
 息を飲んだ彼が、視線を泳がせた。しばらくの沈黙。
「・・・おまえには、もっとふさわしいヤツがいるはずだ」
 そう言った彼が、視線を逸らす。
 ユーリ・ローウェルといえばこの学園で知らぬ者はいない、アイドルコースの有名人。彼をパートナーにと望む生徒は山ほどいるだろう。その中には当然、自分よりもずっと実力のある生徒もいる。
 だったら、そっちの方が彼のために、なる。
「・・・言い方が悪かったか?」
 ユーリは小さく溜息をついて、顎に触れていた指を離す。代わりに、両手で頬を包んだ。
 こっち見ろよ、と指示を出すと、逸らされていた青がゆっくりとユーリの灰色の瞳と交わる。
 それに満足そうに表情を緩めてから、
「オレにおまえの歌を歌わせてくれ」
「・・・っ!」
 低くそう紡ぐと、再び肩が震えて。
 やがて観念したかのように、彼はこくりと頷いた。

―――運命だと、思ったんだ

(名前は?)
(・・・ヴェイグ)
(ヴェイグか。よろしくな)

  

  

うたプリパロ
急にやりたくなったんですごめんなさいw
ユーリさんはSクラスでアイドルコース、ヴェイグはAクラスで作曲コース
いっそヴェイグはBとかCとかでもいいんだ、実際あれば
ゲーム未プレイでアニメも最近数話しか見てないのでよくわかってないです←
とりあえずユーリさんは神宮寺さんみたいな感じで
一応恋愛禁止、とか言いつつユーリさんの台詞は熱烈な告白(笑)
110904