花氷*


 よく晴れたある日。
 ヴェイグは甲板に出て、クエストに出かけたユーリの帰りを待っていた。
 これといって理由があったわけではなく、なんとなく、だろうか。いつ帰るかも聞いていないが今日は過ごしやすい陽気だし、甲板でひなたぼっこも悪くない。
 セルシウスがヴェイグを見て小さく微笑む。
 こんなに穏やかなヴェイグの姿を見るのは久しぶりだった。クレアの誘拐騒ぎでサレと対峙してからしばらく、ヴェイグは人一倍神経を尖らせていたようだった。サレがバンエルティア号の中まで侵入することはないだろうが、それでも。
 クレアがなるべく出かけないように心を砕いていたし、それでもクレアが外に出るときは必ず護衛を買って出ていた。
 それは体力的にも、精神的にもヴェイグを蝕んだはずだ。それを変えたのは、やはり黒い青年だろうか。
「セルシウス?」
「いいえ、なんでもないわ」
 どうかしたか?と言葉少なに問いかけるヴェイグに返す。珍しくじっと見てくるから不思議に思ったらしい。
 つかず離れずの距離を開けたまま、ヴェイグが甲板に腰を下ろすのを見ていた。
 近すぎず、遠すぎず。これが二人の居心地のいい距離。
 ヴェイグから視線を外して、セルシウスは風に揺れる洗濯物を眺める。これを干しにきたのはクレアだっただろうか。
 ふと青年の気配が和らぐのを感じて、セルシウスはヴェイグを見やった。柔らかな日差しに照らされて、ヴェイグはやんわりと瞼を閉じている。
 くすりと笑って、セルシウスは目を細めた。

 それから少し。
「ヴェイグ、戻ってきたようよ」
 気配に敏感なセルシウスが、微睡んでいるヴェイグに声をかける。
 本当ならこのまま眠らせてあげたいくらいだが、ヴェイグの目的はここで眠ることではないから起こした方がいいのだろう。
 幾度か目を瞬いたヴェイグは、遠くから歩いてくる一団を眺める。その中に黒づくめの青年を見つけて、知らず表情を緩めた。

願わくば、彼が幸せでありますよう

  

  

書こうとしていたのとは違うものができたみたいです
セルシウスとヴェイグ。でもユリヴェイ
セルシウスが思いの外目立ってしまったのでセルシウスだけになりました
セルシウスはヴェイグのこと気に入ってると思う。たぶん好きとかじゃなくて「かわいい子」みたいなレベルで
そういう意味でリヒターさんとなにかあったらそれもいいなぁと思いつつ←
110811