花氷*


 大掃除も無事に終わった大晦日。
 朝から正月用の料理を始めたユーリを、ヴェイグはリビングから見ていた。
 てきぱきと動いているユーリに声をかけるのもはばかられるし、だからといって大晦日に掃除をするのはよくない。そもそも掃除は昨日の内に終わっているわけだし。
 けれど自分だけここでくつろぐのも悪い、と思っていると、キッチンからユーリの舌打ちが聞こえた。
「・・・どうしたんだ?」
「あぁ、悪ぃな。足りないものがあったことに気づいてつい」
 オレとしたことが、とユーリは続けて苦々しい顔をした。
 昨日まとめて買いそろえたはずなのに、すっかり忘れていたのがユーリとしては許せないらしい。
「オレが買いに、」
 行こうか、と言い切る前に、ユーリはエプロンを投げ捨てていた。
 ヴェイグの頭をぽんと撫でて、
「いいって。昨日もがんばってくれたし、休んでてくれよ」
 に、と笑みを浮かべると、ユーリは慌ただしく家を出ていった。
 残されたヴェイグは、とりあえずそれを玄関まで見送る。
 それから少々考えて、うん、と一つ頷いた。

  

「ただい、・・・ん?」
 近所のスーパーで必要なものをかごに投げ込み、レジに並ぶ。年末の買い出しか客が心なしか多く、いつもよりも時間がかかってしまった。
 げんなりしながら、けれど帰ればヴェイグが待っているからと気を取り直して。
 言いながらキッチンに向かったユーリは、リビングに見えるはずのヴェイグの姿がないことに首を傾げた。
 そのヴェイグが、キッチンからおずおずと顔をのぞかせる。
 おかえり。
「おう、ただいま。・・・で、これはどうしたんだ?」
「・・・その、・・・・すまない」
 もう一度言ってから、ユーリはキッチンを見やる。なにがどう、と説明することはできないが。
 とりあえず、大惨事である。
 すでに手をつけていた鍋は無事だが、他の鍋やら調理台やらがいろいろと酷い。
 思わず目を瞬かせていると、ヴェイグが後ろから再びすまないと呟いた。
「なにか、手伝いがしたくて・・・」
 だが、こんなことになってしまった、とヴェイグは続ける。
 言い足りない、という様子で再び謝ろうとするヴェイグがあまりにもしゅんとしていて、なぜかこっちが悪いことをしている気分になった。
 ヴェイグが悪いわけではないし、ユーリだって怒っているわけではない。
「サンキュ」
 きょとん、と顔を上げたヴェイグの頭をよしよしと撫でる。
 手伝ってくれようとしたんだろ?とユーリは笑みを浮かべた。
 その気持ちがうれしいということは、伝わっただろうか。ユーリはもう一度ヴェイグの頭を撫でて、よし、と気合いを入れた。
「じゃ、一緒に片づけるか!」
「・・・ああ」
 その声とその笑みに気を取り直して、ヴェイグはこくりと頷いた。

キッチンが大惨事です

(っかし、すごいな)
(・・・すまな)
(次謝ったらキス一つな)
(すま・・・っ)
(はい、ごちそうさま)

  

  

大晦日なう!というわけでお料理ネタ
ヴェイグはけっこう料理できると思っているんですが、できないのもかわいいなと
ユーリさんはヴェイグになにもさせないんじゃなくて自分がしてあげたいというスタンス
でもちゃんとヴェイグのことも考えて掃除はちょっとヴェイグの方が分量が多かったりするといいな
掃除はヴェイグががんばってくれたから、料理はオレがするな、みたいな。やだユーリさんできる人すぎるw
ナチュラルに同棲してる現パロになってたけどまあいいか(笑)
111230