花氷*


 しゃらり、しゃらり。
 衣装につけられた小さな鈴が、涼やかな音を奏でる。脇で奏でられている笛に合わせるように、ひらりと白絹が舞った。
「ね、かわいい子でしょ?」
 屋根の上から眺めていた男の一人がにやりと笑った。それに返すことなく、もう一人の男――ユーリは無言で舞台を見つめている。レイヴンはますます笑みを深めると、ユーリの背を軽く叩く。
 ちょっと待ってて。
 言い残してさっさと姿を消した。気にしてすらいないユーリが、一礼した舞人に目を細める。白い衣装に流れる銀色が、淡い光の中に浮かび上がった。
 舞台を降りた舞手は一直線にあるところへ向かう。向かった先にいたのは、黒い髪の男。
「あいつ・・・」
 どこかで見たことあるような、ないような。
 思わず呟いたユーリだが、咎める者はいなかった。
 暖色でまとめられた服を纏った男が、舞人の腰を引き寄せる。抗うこともなく腰を抱かれた彼の人の表情は見えない。どうやら舞手の持ち主は、あの男。
「・・・ッ!」
 瞬間その男と視線が交わった気がして、ユーリは目を見開いた。けれどまるで気のせいかのように、男の目線は客たちに移っている。
 やがて二人の姿がその場から消えると、ユーリはひらりと屋根から飛び降りた。
 小さな音を立てて地に降り立ち、一息。
「あれ、そういえばおっさん・・・」
 いつからいなくなったんだ?
 背を叩かれたことにすら気づいていなかったらしいユーリが首を傾げる。ま、いいか。と帰ろうとしたところで、かけられる声。
「おまた、青年」
「おっさん、どこ、に・・・」
 緩い声に振り向いたユーリの言葉が途切れる。いたのは黒髪の男と、件の舞人。
 けれどかけられた声はレイヴンのもの、で。
 眉を寄せたユーリを見やる威厳の男が、へらりと笑んだ。
「もしかしてわっかんない?オレ様よ、オレ様」
「・・・おっさん?」
「そうそうおっさん。・・・って、なに言わせるのよこの子の前で」
 外見に似つかない口調で話し始めたレイヴンが、半歩後ろを示す。何とも困惑した顔の舞人が、レイヴンを見上げた。
「・・・シュヴァーン、」
 ゆっくりと口を開いた青年(男であることに間違いはない)の言葉を遮り、レイヴンは苦笑する。
 その肩をユーリに向けて押し出し、
「ヴェイグ、彼の相手を頼む」
 俺は客を抑えてくる。
 言った男はレイヴンではないが、こちらにウインクしたのはレイヴン。わけがわからない。
 呆然とレイヴンが去っていくのを見送ると、その場には二人だけが残された。

歴々の舞姫

(彼は、だれ?)

  

  

全くおかしな話に・・・←
こんなことになる予定じゃなかったんだ
お題を「身分の高い」舞姫と見るべきか身分の高い人「の」舞姫ろ見るべきか迷って、後者をとってミルハウストでも出そうかなぁと思っていたのにいつのまにかおっさんが出張ってた←
ヴェイグは姫じゃないなんて大前提を覆すようなつっこみは受け付けないw
そして和物にしようかどうしようか迷ったのがありありと伺えるつくりです(笑)
いろいろと明らかになってないけどたぶん続きでなんとか・・・!
101126