花氷*


 目を見開いて、そこに立ちつくしていた。森の中の小さな村は、その国にさえ忘れられていたはずだった。
 旅人すらも訪れない、その村が、
「どうして・・・」
 炎に包まれている。金属の音がする。
 森から戻ってきたヴェイグが見たものは、紋章。熱風に翻る旗に、村の中を移動する鎧の胸部に刻まれている印。見たことのない紋章が、動き回っている。
 つまりこれは、侵略。
「・・・っ」
 どうしたらいい。
 争いから長く遠ざかっていたこの村に戦う術はない。武器も農具を除けば古びた剣が数振りだけ。扱う力もない。村のみんなはどうしたのだろう。逃げたか、捕まったのか、それとも。
 最悪の想像が頭を駆けめぐる。確かめに、行かなくては。それだけが心を占めて、ヴェイグは走り出した。

   

 赤と黒が混じり合う村の中を走る。死体は、数えるほどですんだ。大半の村人は、生きている。安堵して足を止めた。
 炎が近い。煙がしみて、涙が滲んだ。
「生き残りか」
 突然の声に振り返る。鎧の兵士が立っていた。その胸には、やはり見知らぬ紋章。
 ひゅっ、と喉が鳴って、思わず後ずさった足が家であった木材に引っかかる。がくんと視界が下がって、転んだのだとわかった。赤が滴る刃が持ち上がるのを追って顔を上げる。振り下ろされるのが、やけにゆっくりと見えた。
 刃が突き抜ける鈍い音と、身体にかかる衝撃。
 けれど、痛みはなかった。知らず閉じていた目を開ける。
「っ!?」
 のしかかっているのは、自分に刃を振り下ろそうとしていた兵士の骸。額を、頬を流れ落ちているのはその胸元から溢れている血。
「大丈夫か?」
 声は上から降ってきた。見開かれたままの瞳が、上を見上げる。
 白い馬。自国の紋章が刻まれた同じく白い鎧。熱風になびく金色と、翡翠の瞳。
 その翡翠が自分を捕らえてすぐ、ヴェイグの意識は途切れた。

馬上より失礼

(なにも、しんじたく、ない)

  

  

ファンタジーな戦パロ的ななにか
ヴェイグはたぶん14とか15とか。ミルハウストって27とか28みたいな感じだった気がするんだけど、違うかな・・・。
しかしあとがきとして書くことがあまりない←
・・・あ、馬上より失礼しようと思ったはずがちょっとずれましたね。それどころじゃない展開になったりしてしまった←
一応「降」に繋がる感じで書きたい、です・・・!
101116