花氷*


「もう、お止めください・・・!」
 扉の傍に控える兵士が、蚊の鳴くような声で進言した。声は震え、視線は泳いでしまっている。
 彼がこの男をどれだけ恐れているのか、一目でわかった。
「サレ様・・・!」
「なに?うるさいなぁ」
 面倒そうに言ったサレが視線だけを寄越した。それにすら竦み上がりながらも、その兵士は言葉をつなげる。
「彼らと、・・・隊長たちと戦うのは、もう・・・!」
 隊長、という言葉に思い当たるのは一人しかいない。
 鋼のフォルスを持つガジュマ、ユージーン。彼は隊長として王の盾の中でも尊敬されていたし、目の前の兵士もガジュマだ。思い入れも強いのだろう。
 けれど。
「ユージーン"元"隊長、だろ?それに、ボクが戦いに行ってるんじゃない」
 あいつらが追いかけてくるんだ、しかたないじゃないか?
 笑ったサレが肩を竦める。そう、ついてくるのはあっちなんだ。
 ガジュマ兵は思い余ったかのように身を乗り出し、いいえ!と強く否定した。サレの目が細まる。それにびくりと身を硬くしながらも、なおも彼は言い募る。
「それは以前の話で、今は違うはずだ・・・!」
 儀式は失敗に終わった。女王の行方は知れない。けれど女性たちは解放され、もう彼らと争う理由はないはずだ。
 サレは溜息をついて、紫の髪を弄んだ。
「それなら、戦いは避けるようにしようか」
「サレ様・・・!」
 明るい表情になった兵士に近づき、笑みを一つ。
 兵士が、凍りついた。
「・・・なんて、言うと思ってる?」
 生温い嫌な風が、兵士の頬を撫でた。
 サレは不機嫌に言い放つと鼻で笑う。
「そもそもキミみたいな下っ端にそんなことを言う権利があると思ってるのかい?」
 お笑い種だね。
 ひっ、という情けない声を上げた兵士の周りに風がまとわりつく。今にも切れそうな狂気を孕んだ風は、けれど兵士を切り裂くことはなかった。
「早く出て行きなよ。今のボクは機嫌がいいから」
 見逃してあげる、という言葉まで言う前に、兵士は逃げるように出て行った。
 それを嘲笑って見送り、サレは再び髪を弄ぶ。
「大体、ユージーン元隊長になんて興味はないさ」
 思い出すのは白銀。
 バカみたいに幼なじみを大切にする青年。一見冷たいくせに、すぐに熱くなって刃向かってくる青い瞳。
 興味があるのは、あの青年だけ。
「ボクはもう決めているんだよ」
 呟いて、サレは楽しそうに笑った。

井蛙見に泳ぐほど

(必ずヴェイグを、この手にすると)

  

  

モブとの会話なのに長いw
サレ様優しいですねなんでだろう←
兵士はたぶん書類とかを受け取りに来た、んじゃないかな(適当)
しかし勇気ある兵士(笑)一応二部に入ってからの設定です。
サレ様は最初から意見なんて聞く気ないよ!www
101206