花氷*


 地位があり、金と暇を持て余している貴族にはよくある話だ。
 男も女も関係なく、気に入った者を金で買い、好きなように扱う。仕方がないこと。そう片づけられたら、どんなに楽か。
「シュヴァーン」
「は、」
 そうはいかないのが政治であり、上に立つ者だった。膝を折って頭を垂れた先で、彼は言う。
 大臣の不正を突き止めた。捕らえて引っ立てよ、と。
 その男は卑怯な手を使って周囲を蹴落とし、今の地位を得た。先王の時代だ。現在でも巧みに隠しながら不正を繰り返して私腹を肥やしている。
 主君の言葉に是だけを返し、シュヴァーンはその場を辞した。

「捕らえるのが目的だ。邸の者には危害を加えないように」
 部下に指示を出し、邸へと踏み込む。外観からは予想できないほど中はひどい有様だった。
 ここの主は潔癖とはいいがたい。自らの身なりさえ整っていればよいのだろう。まさに堕落した貴族、といったところか。
「隊長!」
 あまりにもひどい様子に思わずしげしげと眺めてしまった。
 は、と我に返り、部下の報告に耳を傾ける。使用人たちはみな邸を出たこと、対象を発見し拘束したこと、
 それから、
「・・・子ども?」
 その男の傍らに、少年が座り込んでいたということ。
 その服装はどう見ても妾を示す色をしていて、保護したはいいものの一言も口を利こうとしないためにどうしたらいいかわからず現場が困惑していること。
 シュヴァーンは一つ溜息をついて部下を促した。
 途中引きずられていく元大臣とすれ違った。なにやらヒステリックに喚かれたが、聞かなかったことにする。どうせ根も葉もないことを並べ立てているだけだ。
 それにもっと重要なことがある。シュヴァーンは足早に廊下を抜けて件の少年の元に急ぐ。数人の部下と、その間に少年の姿が見えた。
「隊長」
「なにか聞けたか」
 一人が気づいて声をかける。シュヴァーンの問いには緩く首を振った。
 部下を全て屋敷内の捜索にあたらせて、シュヴァーンは少年の前にしゃがみ込む。豪華な衣装を纏っているのとは裏腹に、その身体は細く弱々しい。
 声をかけると、少年は緩慢に顔を向ける。その瞳は驚くほどに澄んだ色をしていた。
「大丈夫だ。なにもしない」
 ゆっくりと語りかけると、少年はじっとシュヴァーンを見返した。感情の読みとれない、それでいてまっすぐな瞳。
 その視線を受け止めて、青い瞳の奥の感情を探す。
 今彼はなにを思っている。なにを考え、感じている。
 言葉を交わさずとも、目を見ればわかるはずだ。やがてその瞳に、かすかに光が閃いた。
 不安と、警戒と、安心。
「大丈夫だ」
 再び繰り返すと、少年は小さく頷いた。
 初めて感情を表したことにシュヴァーンは安堵する。
「おまえの名は?」
「・・・・ヴェイグ」
 紡がれた名を呼んで、手を差し出す。おずおずと伸ばされた細い手をつかみ、ゆっくりと立ち上がらせた。
 すぐにその身体がぐらりと傾くのを支えてから、シュヴァーンはしばし思案する。
 それから再びヴェイグの前にしゃがみ込むと、ふわりと小さな身体を抱き上げた。
 びく、と震えたヴェイグを安心させるために背を軽く撫でて、ゆっくりと歩き出す。
 薄暗い廊下を抜けて外へと出ると、沈みかけた太陽が二人を照らした。眩しさに目を細めているヴェイグがなにを感じているのかはわからない。
 けれど、
「ヴェイグ」
「・・・?」
「おまえがよければ、私のところに来ないか?」
 目を見開いたその表情が、ふわりとほどけた気がした。

夕明かり照らす頬の影

(少年を抱いて、その人は誓った)

  

  

和物っぽいパロの過去編というか。いろいろぐだぐだな部分とかは設定不足です←
シュヴァーン隊長がヴェイグを引き取ったきっかけというか
書き終わるのに時間がかかったので冒頭とかなんで書いてたのか自分でもわかってなかったりしますw
大丈夫だこれはファンタジー!w設定としてはヴェイグが12,3歳くらいです
伏線張ったはいいけど生かせないパターン←
130114