花氷*


 シュヴァーンって、誰だったっけ。
 状況が飲み込めないユーリが、現実逃避のように思考を飛ばした。
 どうやらレイヴンとそのシュヴァーンは同一人物らしい。で、シュヴァーンってのは、
「貴族でありながら一兵卒から将軍にのし上がった人だ」
 ぽつりと呟くように説明したのは舞手の青年。その声に我に返って、ユーリはヴェイグを見やった。
 ヴェイグで、いいんだよな?
 こくり。頷いたヴェイグをまじまじと見やる。綺麗な顔をしている。男とも女ともつかない衣服がよく似合う。
 そうしてふと、口からこぼれ落ちた。
「・・・なぁ、どうして舞なんてしてるんだ?」
 歌や舞を生業にする者たちは、その華やかな技に反して総じて地位が低い。それだけで生きていくためには、パトロンを得るのが彼らの必須条件だった。そしてパトロンを得るためには、大抵口にするのも憚られるような・・・、
「、悪い」
「・・・売られたんだ。両親が亡くなって、それから」
 聞いてはいけないことだった。
 思って出した謝罪は、首を振ることで遮られた。それから話されたのは、高価な衣装を着る人から出るとは思えない生い立ち。
 幼い頃に両親を亡くしたこと、身寄りがなくて売られたこと。買われた先は貴族の中でも指折りの家であったこと、けれどその主が堕落していたこと。やがてその悪行が白日の下にさらけ出され、その家は取り潰しになったこと。その間、自分の扱いがとても悪かったらしいこと。
「あまりにも酷い状態で見つかって、哀れに思ったのだろう」
 彼・・・シュヴァーンが、引き取ってくれた。
 前の家とは比べものにならない待遇を受けることができて、その邸で暮らすことができて、今はとても幸せなのだと。そう言ってヴェイグが話を終えても、ユーリは声をかけられなかった。かけるべき言葉が見つからなかった。
 ユーリだって胸を張れるような生き方はしていない。貧しい下町で生きていく以上ある程度は仕方がないけれど。両親の顔は覚えていないし、犯罪ぎりぎりのことをしてきた。
 けれど身寄りのない子供がそれだけで生きられるはずがない。それでも毎日食べていくことができたのは、周りがみんな温かかったからだ。親切・・・お節介の塊のような彼らがいたから、こうして生きてこられた。
 しかしこの青年は、
「・・・どうして、お前が泣くんだ?」
 不思議そうに、困ったように尋ねられる。それでようやく、自分が涙を流していることに気づいた。
「いや・・・、なんでだろうな」
 つらいのは本人だというのに。
 悪い、と呟いたユーリにヴェイグは微かに苦笑を見せて。
 ふわりと上がった指が、瞬間躊躇する。それでもおずおずと伸びた指が、頬の滴を拭った。
 月に照らされて、ヴェイグの姿が浮かび上がる。白と銀の中で紅に彩られた爪が、彼が囚われ人であることを主張していた。

涙痕拭った爪先の紅

(どうして彼は泣かないのだろう)

  

  

シュヴァーン隊長はいい人
ありがちな設定なんですが、書きながらうわああってなりました←
パラレルこんな設定ばっかりでごめん。受の初期設定がかわいそうなのが好ry
ヴェイグはたぶん自分の暮らしがいいのか悪いのかわかってなかったんじゃないかな、おっさんに拾われるまで
ついでに舞とかは最初にいたところでたたき込まれました
ユーリさんは大体本編と同じような感じです。下町って表現がちょっと微妙なんですが
微妙と言えば続けるべきなのかがもはや・・・←
101127