花氷*


「あっつうーい・・・」
 うだるような暑さの中、マオが何度目かになる呟きをもらした。
 答えるのはどう見ても新しいとはいえない扇風機の駆動音のみ。畳にだらしなく寝そべって、手だけを扇風機に伸ばす。弱々しい風がわずかに手のひらにぶつかった。
「・・・マオ」
 いつもより少々力のない声が名を呼んだ。
 首だけでそちらを見やると、麦茶をお盆にのせたヴェイグが立っていた。顔は涼しげだが額には汗が浮かんでいるし、やはり暑いのだろう。
 元々暑さには弱いし、逆に倒れないか不安になってしまうくらいだ。
 と思いつつマオが麦茶を求めると、まずは起きろと釘を刺された。
「ありがと、ヴェイグ」
 ゾンビのように緩慢な動作で起き上がり、麦茶を受け取る。氷が涼しげな音を鳴らすのを聞きながら一息に飲み干した。
 お盆にコップを戻して、マオは溜息。
「あついねー・・・」
「あぁ・・・」
 少しでも涼を得ようと吊された風鈴も、風が弱すぎてその役目を果たしていない。
 ヴェイグはコップを持ったままマオの呟きに同意した。
 蝉の声と古めかしい扇風機の音を聞きながら、働かない風鈴を眺める。暑さは増すばかりである。
 と。
「あっちぃな」
 がらりと玄関の戸が開く音がしたと思うと、ぼやきながらユーリが戻ってきた。手にしたビニール袋を畳に置いて、外で配られていたらしい団扇を揺らす。
「おかえり、ユーリ」
「おう。・・・あ、それでいいぜ」
 ヴェイグが言って立ち上がろうとしたのを留めて、手からお盆に移ったばかりのコップを示す。いいのか?と目を尋ねるヴェイグに頷いて麦茶を受け取った。
 マオがビニール袋を漁るのを見ながらコップを煽る。
 空のコップを渡して、ようやく一息ついた。
「なに、コレ?」
「ああ、それな。少しは涼しくなるかと思って」
 首を傾げたマオに、大まかに説明する。
 興味深そうに聞いていたマオが、説明を終えてすぐに庭に飛び出した。ホースを引きずって戻ってくる。先ほどのゾンビが嘘のように元気なマオに苦笑してヴェイグが立ち上がった。
 ユーリも同じように立ち上がり、マオに手を貸してやる。
 大きなボール状のガラスに水を入れて、中に小さなガラスボールを浮かべ。触れるとくるくる回って、光をいろんな方向に反射しながら輝いた。
「んー!なんか涼しい気がするネ!」
 楽しそうに笑って、マオが水面を叩く。
 気に入ったみたいだな、なんて思いながら、飽きずに遊んでいるマオを眺めた。出来心だったが、買ってきた甲斐があったというものだ。
 新しい麦茶(今度はコップも三つある)を持ってきたヴェイグと顔を見合わせて、小さく笑った。

水玉見上げ少年は笑う

  

  

あまりにも暑かったので。
なんかユリヴェイ(夫婦)+マオ(子供)みたいになった(笑)
気づいたら日本家屋に住んでました。夏は日本家屋で麦茶だよね!
水玉ってなんだろうと思って、ただのイメージというかそういうのあるよね、みたいな・・・
ユリヴェイはナチュラルにいちゃいちゃしてればいいと思いますw
マオももう気にしてないです、だって息子だもの(笑)
110624