花氷*


 外と内とを分けている塀を軽々と飛び越えて、ユーリは音もなく地に降りた。
 広い敷地内にくまなく警備がいる、なんて邸はなかなかないから、人がいないところを知っていれば侵入はたやすい。
 そもそもこの邸においては、
「警備なんてあってないようなモンだけどな」
 主人がものものしい警備を嫌うこともある。本人がお忍びで街にでてくることを考えれば当然ともいえるが。本人の実力があれば警備なんていらないということもある。
 そんなわけで、邸にいる警備は表門と裏門を初めとする要所(それはむしろ外面を取り繕っている意味合いが強いのだが)に2、3人ずつ。
 巡回もなければ、広い庭にも一人としていない。ユーリにしてみれば好都合ではあるけれど。
 邸に所々灯りは灯っているものの、周囲はほとんど闇に閉ざされている。それでも火があるだけいいとも言える。この時間帯、下町の光源は月光に限られているのだから。
 けれどそのおかげか、夜目がきく。
「さて、と」
 呟いて、ユーリは邸へと足を向けた。
 気づくとは思えないが、なるべく足音は立てないようにする。
 わずかな灯りを頼りにして進むうち、途切れ途切れに音が聞こえてくる。旋律と呼ぶにはやや稚拙な、小さく響く音。
 ユーリは知らず広角を上げて、足を速めた。
「よぉ、お姫さま」
 外の廊下から、中に向けて声をかける。
 ゆっくりと紡がれていた音がぴたりと止んだ。
 部屋の外と内とを隔てる簾を払って、ユーリは中に滑り込んだ。楽器に向けられていた視線が上がり、ユーリを見上げる。
「・・・ユーリ」
 その名を呼んだヴェイグが、微笑んで来訪者を迎えた。

手暗がりにて秘め事を

(シュヴァーンに頼めば、入れてもらえると思うが)
(おっさんに借りは作りたくねえからな)
(・・・そう、なのか・・・?)

  

  

そもそもヴェイグを紹介してもらったことがすでに借りですユーリさん(笑)
夜中にお部屋に忍び込んでるユーリさんの話
一応舞姫パロの続き、というか一幕かなと
別に夜這いじゃないですお話にきただけです。今のユーリさんにそんな根性はない(笑)
忍んではいるけどシュヴァーン隊長はすべてお見通しだと思っています
ちなみにお昼はお仕事でヴェイグには会えないんじゃないかな。ユーリさん案外真っ当に暮らしてそう←
110716