花氷*


 ぐらり。
 目を開けた瞬間に視界が歪んだ。ぎゅ、と目をつむって、ゆっくり開く。白い天井が映った。
「目が覚めたか」
 声は、やっぱり降ってきた。ヴェイグは力の入らない腕で起き上がり、
「突然動くな」
 再びぐらりと傾いだ身体を、逞しい腕が支えた。見上げた瞳が翡翠とかち合う。
 同時に、村のことを思い出した。赤い炎黒い煙、鎧と血塗れの刃。
 あれは、なんだった?
「おい、しっかりしろ!」
 揺さぶられた肩と強い声にヴェイグは我に返る。
 至近距離で自分を見つめていた男が、安堵の息をついた。グラスの水を受け取って、けれど飲まずに持っていると彼は苦笑する。
 そう警戒するな。毒は入っていない。
「私の名はミルハウスト。お前の名は?」
「・・・ヴェイグ。村のみんなは、どこに?」
「・・・・お前以外は、」
 みな死んだ。
 ちがう、だって、死んでいたのは数人だったのに。
 無言で伝えるヴェイグにミルハウストは苦々しい顔をして。麓の町へ降りる山道で、切られていた。おそらく逃げる途中だったのだろう、と。
「・・・すまない」
 助けられなかった。助けるために、救うために来たはずだったのに。間に合わなかった。
「あんたの、せいじゃない」
 だってあの村は、忘れられた村だったのだ。近くの町でさえ、存在が確かだと思っていなかった。だから、もしミルハウストが来なければ、ヴェイグもあのとき死んでいた。
 ミルハウストが悪いわけでは、決してない。
「泣かぬのか?」
 ヴェイグの言葉に顔を上げたミルハウストは、小さく眉を寄せる。
 死んだと耳にしたときに凍り付いた、その表情を残しつつも、瞳は曖昧な色を乗せるだけ。家族が死んだ、友が死んだと聞けば、泣かないはずがない歳の頃なのに。
 尋ねたミルハウストに、ヴェイグはゆっくりと目を瞬かせる。
「・・・わからない」
 泣き方が。
 言ったヴェイグの眦から、水滴が一粒落ちた。

時雨れることもできない人です

(それは涙といえるのか)

  

  

なんか申し訳ない気分になってきました←
ミルハウストは近くの町まで来ててそこで異変に気づいたみたいな感じ
存在としては認識してたと思います。過去の記録では村があったなみたいな
一応過去というか土台になる話を書いておきたかった
このあとヴェイグはミルハウストに世話されながら片腕に成長していくわけですね
101117