花氷*


 ヴェイグが敵対している軍のトップに捕らわれて、数日が経った。捕らわれて、というよりも自ら飛び込んだという方が正しいのだが。
 撤退することは、最初から考えていなかった。あれは挑発だ。少しでもミルハウストの役に立てればよかった。
 あれで怒り心頭、攻めてきてくれれば隙ができる。それがこちらの思惑。
 けれど、一筋縄ではいかなかった。彼は面白いとばかりに笑みを浮かべて、動くことはなかった。
 そして捕らわれて、なぜか将軍用の天幕にいる。この間、両軍の間に大きな動きはない。
「よぉ、調子はどうだ?」
「・・・よくはない」
 流石に両手を拘束されて柱に繋がれている状態で調子がいいといえるほどヴェイグはおかしな神経はしていない。ヴェイグは答えながら、戻ってきた男に視線をやった。
男はなかなかに機嫌がいいらしく、その答えを気にした様子はない。楽しそうに笑うと、ヴェイグの方へ近づいてくる。
「・・・なにが目的だ?」
 拘束されているとはいえ、本来こんな場所に捕囚を繋いでおくなど正気の沙汰ではない。しかもヴェイグは、どこからどう見ても一般兵ではないのだ。
 正直、意味がわからない。
 眉を寄せて尋ねるが、相手ははぐらかすばかりで。
「なにか不便があったら言ってくれ。拘束は解けねぇけど」
「・・・戦況は」
 将軍とは思えない軽さで言う男に短く尋ねる。
 答えが返るとは思えなかったが、ヴェイグの予想に反して肩を竦めた男は素直に話した。
 未だに膠着状態であること、斥候を寄越してもなんら動きがないこと。こちらから動くつもりもないこと。
「アンタを迎えに来ると思って待ってんだけどな」
 意外に向こうも冷静だ。
 まあ、俺としては迎えがなくてもいいんだけど、なんて続けた男に、ヴェイグはますます眉を寄せる。
 元よりこちらとあちらでは戦力差は明らか。ならば当然物量で押し切れると、そういうことなのだろうか。
 とりあえずミルハウストが動かなかったことに安堵した(元々その予定だったから不安はなかったのだが)ヴェイグが、けれど知らず険しい表情になる。その内心を読み取ったかのように男は苦笑して。
 そんな顔すんなって、
「ただアンタを連れて帰りたいってだけだ」
「・・・は?」
 思わず声を上げたヴェイグが、しばし口を閉じて。
 やがて開かれた口から飛び出した言葉に、男はますます楽しそうに笑った。

のろいのことばをはきました

(・・・お前の軍が、お前を含めて壊滅したら考える)
(は・・・そりゃ楽しみだ)

  

  

降らねば、の続き。
いい加減ユーリさんの名前出した方がいいよなぁとか思いつつ(笑)
性格にだいぶ差異がある気がするんだけど内容上ごめんなさい
だから早く負けてしまえ、っていうのがヴェイグさんののろいかな
細かいことはなんにも決まっていない上状況で書いてるのでどこに着地すればいいのかw
130626