オレは、どうしたらいい。
松明の限られた灯りから離れて、ヴェイグは闇に身を預けていた。
闇は好きだ。なにも見なくてすむから。
遠くではがしゃがしゃという、金属がこすれる音がしている。おそらく武具を運んでいるのだろう。
手伝うことはしない。手を出すのは彼らの仕事を奪うことになるし、ヴェイグはおいそれと出ていける立場でもないから。
一応は副官という扱いだけれど、ヴェイグには実績がない。他の兵士にとって、ヴェイグは突然将軍の傍に置かれた小姓のようなもの。
あまりよく思っていない者も多いから、一人で出歩くなと言われたばかりだった。
暗がりならば目立たぬだろうと、その人の目を盗んできたのが少し前のこと。今のところ気づかれてはいない。
「・・・戦、か」
小さな声で呟いて、ヴェイグはぼんやりと遠くの松明を眺めた。
省みることなく、ここまで来てしまった。
前戦とでもいうのだろうか、それともただの略奪か。隣の国の軍に村を焼かれ、家族を、友人を失った。助かったのは村を離れていたヴェイグだけで、けれど自身も死ぬところだった。
それを救った将軍に育てられる形で、ヴェイグは生きてきた。
そして今、戦に出ようとしている。自分がなにを望んでいるのか、わからない。
本当にこれでよかったのか、あそこでみんなと一緒に死んでしまった方がよかったのではないか。そんな気になる。
思わずついた溜息が、白く上って消える。
と。
「・・・ッ!?」
突然後ろから口を塞がれて、ヴェイグは身体を強ばらせた。
敵がきたのか、いや、そんなはずはない。けれど、全く気配に気づかなかった。
これでも気配には敏感な方だ、それなのに。
わずかな間に思考を巡らせているヴェイグの耳に声が届いた。
その声は、聞き慣れたもの。同時に現れる気配と、解放される口。
「一人で出歩くなと、言ったろう?」
「・・・ミルハウスト・・・」
振り向いた先にいたのは、安堵の表情を浮かべた件の将軍だった。
ヴェイグは思わずその名をこぼす。それから今は公的なのだから、こう呼んではいけないこと思い出す。けれど本人が気にする様子がないから、言い直すのはやめておいた。
咎めるように言われたところを見ると、どうやらヴェイグは探されていたらしい。
これが敵だったらどうする、と続けられて、ヴェイグは素直にすまない、と呟いた。
敵がどの程度の技量を持っているかはわからないし、ミルハウストほどの力を持つ者は早々いないとも思うが、もしもということもある。自分一人いなくなっても軍に影響は出ないだろうが、
「ヴェイグ」
「・・・?」
「おまえがいなくなっては困る」
何一つ口にしてはいなかったはずだが、考えが読まれていたらしい。長年のつきあいは伊達ではない。
その流れでいくと、悩んでいるということも彼にはお見通しなのだろう。
ヴェイグは少しの逡巡の後、口を開いた。
ミルハウスト、
「オレは、どうしたらいい」
その言葉にミルハウストが眉を顰める。
なんのために戦えばいい。なんのために剣を振るえばいい。守るべき者はなく、敵に恨みがあるわけでもないのに。
闇に光る金髪を見上げる。
ミルハウストは対応するかのような白銀を撫でて、不安げな瞳を見つめた。
なにもないと思っているのだ、この子は。自分の手の中には、なにもないと。
「ヴェイグ、おまえの望みはなんだ?」
なにか、あるはずだ。
地位や金という、俗物的なものでもいい。祖国を守る気持ちだとか、敵を恨む気持ちでもいい。
そのどれもヴェイグに当てはまらないことは知っているけれど、あえて挙げてみせる。
なんでもいい。人に認められるものでなくても構わない。
今この場に立つきっかけが、あったはずだ。
「・・・役に、立ちたい」
やがて答えたヴェイグに、ミルハウストが頷く。
そう、それでいい。そう続きを促して、続いた言葉に目を見開いた。
「ミルハウスト、アンタの、役に立ちたい」
力不足かもしれない。オレなんかいらないかもしれない。でも。それでも。
強い瞳を取り戻したヴェイグに、驚いていたミルハウストは我に返る。
まさかそうくるとは思わなかった。
内心思って、笑みを浮かべる。
それなら、ヴェイグ。
「死ぬな。私と共にあり、力を貸してくれ」
頷いたヴェイグは、その言葉を刻み込んだ。
(貴方の言葉、それだけが真実)
前振りが長い(いつものこと)
微妙に考えていた話とかわったけど、まあこれはこれでよし。というわけで和風戦争パロ
設定を忘れたなんてそんなことは、ないよ・・・←
二人とも恋愛感情ではないです。助けてくれた、拾ってくれた、育ててくれた
その恩に報いる方法を考えた結果結論として出てきたのがそういうことだったっていう
ミルハウストもかわいい娘(笑)くらいの認識でいてほしい感じ
年齢設定ェみたいになってますがもう気にしたら負けだよね!
111026