花氷*


「眠れない?」
 部屋を訪れたヴェイグを迎え入れ、ユーリは言った。
 こくりと頷いて、ヴェイグはどこか不安げな表情を見せる。ユーリがその思いを汲みとって、笑みを浮かべた。
「別に迷惑じゃないから気にすんな」
 途端に表情を緩めたヴェイグをベッドに座らせる。肩を叩いてから、ユーリは食堂に向かうと一言告げて部屋を出て行った。
 ドアの閉まる音、足音が遠ざかるのを聞きながら、ヴェイグはベッドに倒れ込む。ぼすん、と鈍い音を立ててベッドが身体を受け止めた。
 溜息を一つ。
「・・・・」
 不安になった、のだろうか。
 夢を見たとか、特別になにかがあったわけではない。けれどなんだか眠れなくて、ユーリに会いたくなった。
 ベッドに顔を埋める。ふわりと香ったユーリの匂いに目を閉じた。
「・・・ヴェイグ?」
 湯気の立つマグカップを二つ、持って戻ったユーリは、ベッドに横たわるヴェイグに声をかける。
 眠れないと言って訪れたはずが、たいした時間も経っていないのに寝ているように見えたから。もちろん眠れないよりは眠れるに越したことはないのだが。
 ゆっくりと目を開けたヴェイグが、ユーリの姿を捉えて身体を起こそうとする。それを止めてユーリはベッドに腰掛ける。ヴェイグの身体が小さく揺れた。
「ユーリ、」
 緩慢に名を呼んだヴェイグに笑みを返して、ユーリはその頭に手を伸ばす。
 優しく撫でてさらさらの髪を梳くと、ゆるゆるとヴェイグの瞼が下がった。けれどその瞼を無理矢理開けて、ユーリを見上げる。ユーリはそんなヴェイグに苦笑した。
「眠くなったら寝ていいんだぜ?」
「・・・だが・・・」
 反論の言葉も鈍い。
 いいから、寝な。
 言って、ユーリは再び髪を撫でる。
「おやすみ、ヴェイグ」
 夢の世界におちていくヴェイグに呟いて、優しく笑った。

悦楽に堕ちる瞼

(眠れないなら、眠れるまで傍にいてやる)

  

  

悦楽=睡眠欲。おもしろみなくてすいません。
ユーリさんに夢を見すぎな今日この頃です。むしろデフォルトな気がしてきた(笑)
ヴェイグが来たのにはほんとに理由はないと思います。
あえて言えば、会いたかったから?
ところでマグカップの中身はユーリさんのお手製。途中からログアウトしたけどな!←
次の日においしくいただけばいいと思います。
110417