花氷*


 きゃっきゃ、とはしゃぐ声を聞きながら、ユーリは小さく溜息をついた。
 それからすぐに、後ろにずしりと重みを感じる。
「どうしたよユーリ。機嫌悪くね?」
 あ、さては思ったよりチョコもらえなかったんだろ!
 へへ、と笑って、机の上をのぞき込む。そこには積み上がるほどのチョコレートが乗せられていて、すぐにその笑顔は固まった。
「なにおまえ、こんなにもらっといて不満だっつーのかよ!」
「ちげえよ」
 まさかそんなこと言ったらぶっとばすぞ、なんて冗談混じりの問いかけに対する答えは横から返ってきた。
 隣の席で頬杖をついているヒスイが、呆れ混じりの笑みを浮かべている。
「スキー教室で下のヤツらがいねえからな」
 下のヤツらとは、一つ年下の学年のことである。
 三日前から学校行事であるスキー教室に出かけている。帰ってくるのは予定では今日の夜。
 明日明後日は振替休日で、彼らがバレンタインデーを謳歌するのはさらに次の日となる。
 それはつまり、恋人がスキー教室に参加しているユーリのバレンタインデーも三日後になるということを意味した。
 という理由を知っているのはこのクラスでは本人を除けばヒスイだけで、一般的に見ればこの野郎こんなにもらっておいて不満げな顔しやがって、となる。
 そんな周囲など気にするはずもないユーリは、もう一度溜息をついて立ち上がった。
 油断していたクラスメイトが背中から落ちる。
「悪いけど帰るわ」
「おう」
 まだ昼休みにもなっていないのに鞄を掴んだユーリに、ヒスイは短く答えた。

 

 

 時間が過ぎるのが遅い。
 自室のベッドに転がっていたユーリは携帯を開く。先ほど確認してから一時間と経っていない。
 ヴェイグからメールが来て、予定より遅れたが無事に帰って来たことを報告されたのに頬を緩めたのは二時間ほど前だが、ものすごく前のことのように感じる。
 今日何度目かになる溜息をついて、ユーリは目を閉じた。
 時間を稼ぐには寝るのが一番だ。思ってうとうとと浅い眠りをさまよっていると、突然携帯が鳴り出した。
 設定された音楽から相手が誰かを瞬時に判断して、ユーリは飛び起きる。
「ヴェイグ」
『・・・ユーリ?』
 すまない、寝ていたか?
 開口一番名を呼ばれて驚いたらしいヴェイグが、続けて申し訳なさそうに尋ねてくる。
 大丈夫だと返して、ユーリはどうした、と柔らかく尋ねた。
 寝ていたのは間違いないので起きていたとは言えないが、寝るのは手段であって目的ではなかったので問題はない。
 そうか、と呟いたヴェイグは、その、と一度躊躇う様子を見せてから言った。
『・・・出てこられないか?』
「今からか?」
 こんな夜更けにヴェイグがそんなことを言うのは珍しいなと思って、ユーリが聞き返す。
 明日やら明後日やらことを言っているなら不思議には思わないのだが。その切り返しを無理だという答えにとったのか、ヴェイグはすまない、なんて謝ってくる。
 それに反論する間もなく続けられた言葉に、ユーリは目を見開いた。
『チョコレートはポストに入れておくから、』
「待った。ヴェイグおまえ今どこにいるんだ」
 今度はこちらが言葉を遮って問いかける。
 そうしながらも、ユーリの片手は既に放ってあるコートを掴んでいた。
 携帯を肩で挟んでコートを着込む。マフラーにちらりと目をやったが、すぐにドアに手を伸ばした。
 電気もつけずに階段を降りているところで、ようやくヴェイグの言葉が返る。
『・・・ユーリの、家の前だ』
 その声を聞きながら玄関を開けた先に、白い息を吐きながら驚きの表情を浮かべるヴェイグを見つける。
 ゆーり、と自分の名をその唇が象る前に、ユーリは冷えたその身体を抱きしめた。

待ちきれないのはおたがいさま

(すげえ冷たい)
(・・・電話をするべきか迷って・・・)
(むしろ待ってたくらいだからしてくれてよかったけど、なんで)
(・・・どうしても、今日のうちに渡したかったんだ)
(ヴェイグ・・・っ)

  

  

ユーリさんのキャラがあれ?←
浮かんだのが学パロでしたごめんなさい。しかも両方生徒設定とか今までなかったタイプw
行事に関しては結構適当です。というか滞在型の行事が二月にあるのってたぶんありえないんじゃないかな!←
ヒスイが出てきたのはわたしの趣味(笑)
もう一人がモブなのは誰を同じ学年にするか思いつかなかったからです
ティトレイみたいなノリで書いてたけどティトレイがヴェイグと同い年じゃないはずがないと思って却下されました
バレンタインなのにあんまり甘くならなかったですね・・・!
120213