花氷*


 ぱん、と手を合わせる。願うことなんてほとんどないのだけれど。
 隣の様子をうかがうと、なにやら熱心に拝んでいるようだった。細々とした願い事がたくさんあるのだろう。
 再び目を閉じて、控えめに願った。
 恒例のおみくじを引いて一喜一憂し、人混みを抜け出したところでティトレイが伸びをする。
「ヴェイグは願い事なににしたんだ?」
「・・・おまえはどうなんだ」
 そう返したのは、あまり知られたくないという気持ちがあったからかもしれない。
 大した願い事でもないし、叶えようと思えばきっと叶えることのできる願いだ。
 けれど願い事を人に知られるのはよくないとも言うし、ティトレイならば論点をずらせると考えたのかもしれない。
 そんなヴェイグの目論見(といっては表現が悪いかもしれないが)は当たって、ティトレイは途端に生き生きと自らの願い事を語り始めた。
 それを聞き流しながら、ヴェイグはゆっくりと歩き出す。隣に並びながら、ティトレイはなおも陽気に語っている。
 新年早々幸せな奴だな、なんて皮肉も交えて思いながら小さく溜息をつくと、白い息がまだ明けきらない夜空に立ち上った。
「ああ!姉貴に早く帰るように言われてるんだった!」
「・・・オレはいいから、早く帰れ」
 新年の挨拶だとか、その準備だとか、そういう類のものなのだろう。彼女は物日を大切にする人だから。
 悪ぃなヴェイグ!なんて謝りながら、ティトレイは駆けていった。人のことを言える立場ではないが、大概姉に弱い弟である。
 赤い鳥居を緑の後ろ姿が走り抜けていくのをなんとなく見送っていると、それにすれ違うようにして誰かが鳥居をくぐってきた。
 その人は長い黒髪を後ろで束ねていて、シンプルな黒い着流しを身につけている。見覚えのある人の見覚えのない姿に、ヴェイグはしばしぼんやりとそれを見つめていた。
 その視線に気づいたか、その人はふとヴェイグを見やる。そして。
「ヴェイグじゃねぇか」
「・・・ユーリ」
 に、と笑って、着流し姿のユーリが近づいてくる。なぜ一人なのかと尋ねてくるユーリに手短に訳を話すと、似たようなもんだな、と苦笑を返された。
 聞けばユーリの方も、初詣に来た先で予定が入ったと連れに帰られてしまったらしい。
「せっかくだから一人で行こうかと思ったんだが」
 よければ一緒にどうだ?二回目になっちまうけど、なんて続けたユーリに頷いて、連れだって歩き出す。
 年明けの瞬間を待っていた参拝客の最初の波が去って、先ほどより人が少なくなったような気がする。もう少しすれば、きっとまた増えるのだろう。
 さすがに再び詣でる気にはならなくて、端に寄ってユーリが戻るのを待った。
「願い事なんて大してないんだけどな」
 結局習慣ってやつなのかね。
 戻ってきたユーリが言うのに控えめに相づちを打った。考えたことは同じだが、それなりに願い事をしてしまった以上大きくは同意できなかった。
 ヴェイグは願い事、したか?
 そう問われて、ヴェイグは少々考えて。
「もう、叶った」
「ん?」
「・・・なんでもない」
 小さく笑んだヴェイグに、ユーリが首を傾げた。

やわらかな年明け

(ああ、そういえば)
(・・・?)
(あけましておめでとう)
(・・・あけましておめでとう、ございます)
(今年もよろしくな?)
(、こちらこそ)

  

  

というわけであけましておめでとうございます!
くっつく前の二人で初詣というなんとも新しい話になりましたw
着流しって初詣で着ないよねみたいなつっこみはなしの方向でお願いします←
なんかいつもと違う格好をしてほしかっただけでした
ヴェイグの願い事はなんだろう、ちょっと会いたいな、というレベルの小さなものだといいと思います
そしたら叶っちゃったどうしようみたいなヴェイグかわいい
相変わらずこんなノリですが、今年もよろしくお願いします!
130104