花氷*


 船内がいつもより肌寒い気がする。
 思いながら、ユーリは部屋を出た。アドリビトム号は船長の祖先のなんたらさんとやらが遺したものすごい機構の船であり、気温調節なんかもお手のものである。
 だから基本的に船内は常に快適な温度に保たれている、はずなのだが。
「おはよう、ユーリ」
「おう。・・・なんか寒くねーか?」
 いつもより人の多い食堂に入ると、口々に挨拶される。それに答えながら空いている席につくと、向かいに座っていたマオに問いかけた。
 シチューを頬張っていたマオが頷いて、外を指さした。天気は曇り、だろうか。
「違うヨ!雪!」
 言われて目をこらすと、確かになにか降っているようにも見える。なるほど雪か、と興味なさげに呟いた。
 マオはその間にもシチューをかき込むと、さっと席を立つ。急いで食べるなんて珍しいと思っていると、同じように急いでいるのが数人。誰も彼も年少者ばかりだ。
「じゃーね!行ってきますヴェイグ!」
「ああ、気をつけて」
 食器を下げて、テーブルの横を通り様に言う。ヴェイグが頷いて、すれ違うようにユーリの横に立った。
 挨拶がてらマオの座っていた席を示し、座るように促す。律儀に礼を言ってからヴェイグがそれに従うのを見てから、ユーリは尋ねた。
「甲板に行って雪遊びをするんだろう」
 曰く、故郷の村では毎年のように雪が降っていたのだが、この船に来てからは年中移動していることもあり雪が降ることは珍しい。積もるなんて以ての外である。だから今このチャンスは見逃せないというわけだ。
 なるほどな、と納得して、浮き足だった年少組を思い出す。朝食の時から遊びたくてうずうずしていたということなのだろう。
 他のメンバーにしてみてもこの雪の中行かなければならない依頼もないし、ちょうどいい休日になったというわけだ。食堂に人が多いのもその関係か。
「・・・いや、違うか」
 ユーリがもらした言葉にヴェイグが小さく首を傾げる。
 食堂に人が多い理由は休みだからではなく寒いからだろう。いつもよりも外気温が低いから船内のシステムがうまく働かないのだ。
 食堂は火を使う。その分広間や廊下、それぞれの部屋より気温が上がっている。おそらく暖をとるために集まっているのだろう。
 かく言うユーリも食堂に入った瞬間暖かいと思ったし、なにもなければここにずっといたいと考えた人間である。
 寒いのが苦手なわけではないが、かといって得意でもない。できれば暖かい方がいい・・・
「よし」
「?」
「行こうぜ」
 じっと向かいのヴェイグを見て、一つ頷く。ちょうど朝食も終えたところだし、とヴェイグを促して立ち上がった。
 食器を下げて、いつもより騒がしい食堂を出る。目的地はユーリの自室である。
「ユーリ?」
 ご丁寧に鍵をかけ、ベッドに腰掛ける。意図がわからずに名を呼ぶヴェイグに答えることなく、座るよう促した。
 ぽん、と示した場所は、自らの足の間。
「寒いから」
 なにか言おうとしていた(おそらくどうにしかしてせめて隣辺りに座りたかったのだろう)ヴェイグは、催促するような言葉と強い視線に負けてその場所に腰を下ろした。遠慮しているのだろう、ベッドはほとんど沈まない。
 苦笑したユーリが後ろからヴェイグの腰に腕を回して抱きしめる。
 ぐっと力を入れると、バランスを崩した身体が寄りかかってくる。それを受け止めて、ユーリは満足そうに笑った。

暖まる方法

(ユーリ!)
(こうしてれば暖かいだろ?)
(別にオレは寒くない)
(俺としてはもっと暖まる方法もあるんだけどな?)
(・・・ッ!)

  

  

一応初雪記念でした。おかしいな雪とかあんまり関係なくなった←
着地点を定めずに書いたら予想以上に曲がって落ちましたwユーリさんがなんかおかしいw
前振りが長くて書きたいところが短いのはいつものことですね
いろいろと捏造してるので基本的に読みとばしてください←
甲板に遊びに行く話にしようかと思ったけどユーリさんの服装を思い出したら寒くなったのでやめましたw
130114