花氷*


 傭兵とは名乗っているが、戦場に出たことはない。
 アルクノアであったことも、またリーゼ・マクシアには戦争というものがしばらくなかったこともあるのだろう。アルヴィンがしてきたことはほとんどが魔物の討伐と、ごくたまに情報を入手すること。傭兵というよりは、万屋と言ったところだろうか。
 だからどうというわけでもなく、人を殺せと言われれば、きっとあっさり殺したのだろう。彼にとって、リーゼ・マクシアの人々は同じであり異なるものであったから。

「貴様がアルヴィンか」
「おたくが依頼人?」
 依頼を受けるために指定された場所は、ニ・アケリアの片隅。
 村を眺めながら平和なもんだと頭の片隅で考えているアルヴィンに声をかけたのは、黒ずくめの男だった。この場の雰囲気と明らかにかけ離れているが、本人が気にした様子はない。
「ついてこい」
 端的に言うと、男はさっさと踵を返す。
 なるほどこれだけ黒ければ見失うことはないだろう、なんて失礼なことを考えながら、一定の距離をとってのんびりと後を追った。
 さらに奥まった木々の間に、人影が見える。男がその人影のそばで足を止めたのを見て、アルヴィンは若干足を速めた。
 近づくごとにはっきりしてくる人影にその正体を知り、思わず声を上げる。
「マジかよ・・・」
 リーゼ・マクシアに生きる者・・・少なくともア・ジュールに暮らす者なら知らないはずはない人物。
 アルヴィンの目の前にいるのは、まごうことなき黎明王だった。
 となれば、黒ずくめの男はア・ジュールの片翼なのだろう。予想以上に大物が出てきてしまった、とアルヴィンは思う。
「お前がアルヴィンか?」
「そ。以後お見知り置きを、王様」
 赤い瞳に見据えられて、アルヴィンは思わず目をそらす。若干おどけた挨拶が、それを隠してくれているといいのだが。
 彼の瞳は、全てを見透かしているように感じた。自分が見せない、意識して隠しているところまで、全て。
「・・・」
「陛下」
 口を開こうとした彼を側近が諫める。ガイアスはちらりとウィンガルに視線を投げてから口を噤んだ。
 ウィンガルはそれを見届け、その後アルヴィンを見やる。なんとなく視線に刺々しいものが混ざっている気がする。
 敬意の欠片もなさそうな挨拶が気に食わなかったのだろうか。まあ自分が逆の立場でも好印象ではないだろう、なんて他人事のように思う。
「そんな厳しい顔しなくても仕事はちゃんとしますって」
 へら、と笑みを浮かべると、ガイアスが目を細めるのが見えた。なにかを探られているような錯覚を覚えて、目をそらす。
 ウィンガルが眉をひそめてから口を開いた。淡々と仕事内容を述べて、以上だ、と締めくくる。
「話は終わりだ」
 もうお前に用はない、さっさと行け。
 そう続けたウィンガルは完全にアルヴィンを敵視している。嫌われたもんだ、と内心呟いて、もう一度ガイアスを見やった。
 彼の方は特に変化は見られない。目を細めた以外は表情すらも動いていなかった。
 仕事ができればいいと、そういうことなのだろうか。与えられたものがこなせるのならば、その人となりがどうであろうと関係ない、と。
 ふと浮かんだ考えに、ぴりりとしたなにかが心に走る。
 気に入らない、?まさかな。
 リーゼ・マクシアの人間なんて、どうでもいい存在なのだから。
 自分の中の違和感をそうして説き伏せて、アルヴィンは二人に背を向けた。
 そんじゃ、なんて軽い挨拶をして、軽く手を上げる。返事など端から期待していない。
 上げた手の隙間から様子を窺うと、赤い瞳と目が合った気がした。

見通す赤

(いっそ見透かしてくれればいいなんて、気のせいだ)

  

  

アルガイが書きたくて(今回のテーマ)
着地点が消失しました←
一応出会い編というかそんな感じの話になったようなそうでもないような
本編前っていう設定なんだけど、じわじわ書いてるうちにアルヴィンさんのサイドストーリーでなんか鍵欲しがってるの知って交渉した、みたいな情報が出ててあれこれ本編前じゃダメなんじゃね?
って。なった結果どうしたらいいのかわからなくなってウィンガルがアルヴィン嫌い嫌いしてるだけのものになったというwww
というわけで最後に無理やりCP要素的なものを詰め込みましたwww
続かないよ!←
121214