花氷*


 エターナルソードを巡る一件から数ヶ月。
 どんな話をしたのか禁固三ヶ月という破格の判決を受けたユーリは、ようやく外の空気を吸うことができていた。
 ご丁寧に武器まで返却されている。一応殺人犯だぞ、と甘い対応に苦笑して、ユーリは今も城でがんばっているのであろう親友を思う。
 三ヶ月でフレンの覚悟を決められたなら安いものだ。
「さて、どうすっかな」
 口ではそういいながら、ユーリはすでに向かう場所を決めていた。罪を償う相手が、もう一人いる。

 氷に包まれた村。
 ぴりぴりした会話の中で一度だけ彼が口にしたその言葉を頼りに、ユーリは目的地にたどり着く。
 森を越えた先にある小さな村には、今は氷の面影はない。冬になれば雪に埋もれてしまいそうな、辺境の小さな村だ。
 ま、数ヶ月も経てばな、なんて思ってから、村に足を踏み入れた。
「おや珍しい。こんなところまでなにしに来たんだい?」
 宿の看板も見えないところを見ると、旅人が訪れることも滅多にないらしい。
 町と町の間にあるわけでも、この村を越えた先に何かがあるというわけでもないから、当然といえば当然かもしれないが。
 声をかけてきた妙齢の女性に、ユーリは近づく。
 黒づくめに帯刀となればふつうは警戒するものだが、そんな警戒心が生まれることもないのどかな村なのだろう。
「ちょっと人を捜してるんだけど、」
 ヴェイグって、知らないか?
 小さな村だ。知らないということはないだろう。その予想は見事に的中し、女性は頷いた。
「あら、ヴェイグちゃんの知り合いだったの」
 あの子の家ならこの先よ。
 この時間なら家にいるんじゃないかしら、という女性の言に、ユーリは笑みを浮かべて礼を言う。
 善は急げ。思って歩きだしたユーリを、女性が呼び止めた。
 ここで待つように言いおいて、おそらく自宅なのだろう目の前の家に入っていく。
 少しして出てきた女性は、手に皿を乗せていた。皿の上には、出来立てなのか湯気の立つパイ。
「ヴェイグちゃんのところに行くのなら、これ持っていってくれる?」
 出会って数分の人間に対していきなりものを頼むとはずいぶん図々しいが、これもまた田舎特有のものなのだろう。受け入れられているようで悪い気はしない。
 ユーリは快く請け負って、皿を受け取る。
 それじゃあよろしくね、なんて言っている女性の見送りを受けながら、ユーリはヴェイグの家に向かった。
 外からの客が珍しいのか(それともユーリが持っているものが気になったのかもしれない)、たびたび声をかけられながら小さな家にたどり着く。
 皿をウェイターのように片手で受けて、空いた手で戸を叩いた。
 聞こえなかったのか留守なのか、返事はない。
「おい、ヴェイグ!いるか?」
 ユーリは呼びかけて、今度は強めに戸を叩く。まるで友人のようだと内心苦笑したが、顔には出さない。
 どちらに反応したのか中で人が動く気配がした。とりあえず留守ではなかったらしい。
 留守であればこの皿を持ってあの女性のところに戻る必要があるし、いろいろと面倒なことになりそうだと思っていたのでそこは一安心である。
「・・・誰だ?」
 戸が開くことなく、向こうから声がした。知らない声だから警戒しているのだろうか。
 ユーリは忘れちまったか、と思わせぶりに言ってみる。
「復讐相手、ってとこだな」
「!」
 戸の向こうで気配が大きく揺れて、沈黙する。それから少しして、小さく戸が開いた。
 白銀の髪が隙間からのぞき、青い瞳がユーリを捉える。
 ユーリはよぉ、と軽い挨拶を一つ。どうして、という微かな声が聞こえたが、気づかないフリをして言葉を続けた。
「とりあえず入れてくれねぇか?お前に届け物がある」
「・・・入れ」
 しばらく対応を考えていたらしいヴェイグが、小さく息をついて戸を開けた。
 礼を言って中に滑り込む。その際に持っていた皿をヴェイグに渡した。
 頼まれたことを伝えると、ヴェイグが苦笑した気配があった。
 こじんまりとしたキッチンにヴェイグが向かっている間に、ユーリは家の中を見回す。不躾だとは思うのだが、そうしたくなるのが人の性である。
 必要なものしか置いていない、さっぱりした家だ。窓の植物は本人の意思というより村人の誰かからもらったとかそういう類のものだろう。
 大きくはないダイニングテーブルに座るよう促され、ユーリは素直に腰掛ける。
 キッチンに立つヴェイグの後ろ姿をなんとはなしに見ながら頬杖をついた。
「何の用だ」
 やがて茶器と切り分けられたパイを手にしてヴェイグが戻ってくる。ユーリの分まで持ってくるのは素直なのか礼儀を忘れていないのかどちらだろうか。
 向かい側に腰を下ろすと、ユーリに尋ねた。睨むとまではいかないが、わずかに眉を寄せている。
 警戒もされている。けれどその中に困惑を感じて、ユーリは首を傾げた。
 警戒しているのはわかるが、困惑する必要はないだろう。復讐相手が転がり込んできたのだから、その剣を振るえばいいだけの話だ。
 もしかして忘れているなんてことは・・・ないと思うが。
「ずいぶん時間は経っちまったが、やることはやったからな」
 あえて核心を避けたユーリの言葉に、ヴェイグが怪訝そうな顔をする。ユーリは自らの剣を抜き、ヴェイグに向けた。
 ぴくりと反応したヴェイグが身を引く前にその剣を反対に回す。怪我をしないように器用に刃をつかみ、柄を向こうへ。
「あいつの復讐、したかったんだろ」
 ユーリは言って、刃を首筋にあてがった。ヴェイグが息を飲む。
「オレの命、お前にやるよ」

やり残したこと

(見開かれた青い瞳が、とても美しく見えた)

  

  

ツイブレのED後設定
ぐわああああって盛り上がったので勢いだけで書いた。らオチなかったw
刑罰とかはふつうに適当です。殺人で三ヶ月なはずはないと思うんですが
エターナルソードの危ないところをくい止めたので、みたいな特殊な設定になるのかもしれないし、一般的にはエターナルソード?なにそれ?みたいな感じだろうからやっぱりアウトなのかなとか
世界樹救った訳じゃないしね。はたして続くのかどうか甚だ不安です←
120306
加筆修正 130615