花氷*


 お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!

 子供たちがはしゃぐ声がする。
 吸血鬼や魔女、狼男など恐ろしいものに仮装して家々を巡り、お菓子をもらうイベント。確か元々は、恐ろしいものに化けることで悪霊なんかを追い払うものだったか。
 ・・・ならばなぜ、目の前の人は逃げていかないのだろうか。
「ん?」
 じいっと見つめると、彼は口の端を上げて首を傾げてみせた。
 どうした?と尋ねる彼の口には、ヒトにはない鋭い牙がある。彼・・・ユーリは、いわゆるヴァンパイアという種族、らしい。
 彼は一定の周期で血を吸いに訪れる。一定、といっても、三日と開けずに来ることもあれば一ヶ月来ないこともある。来ても吸わないこともあるし、彼はとても気まぐれだ。
「・・・ユーリは、悪霊じゃないのか?」
「そう見える?」
 我ながらおかしな質問だと思う。
 二択であれば、恐らく答えはノーだ。けれどはっきりノーとは言えない。どちらの根拠もない。そもそもユーリ以外にヒトでないものを見たことがないから、比べようがない。というのは、言い訳かもしれないが。
 彼は自分が嫌がることはしないけれど、わずかな拒絶は歯牙にもかけない。
 女性にも間違われそうな風貌をしているのに(こう言うと途端に不機嫌になるのだが)、時折驚くほど悪い顔をする。
 今もそう。なにか考えている顔をしている。
「オレを追い払いたいなら、お前も仮装しなきゃな、ヴェイグ?」
 耳と尻尾でも用意するか?
 仮装の定番だろ、なんて続けるユーリはひどく楽しそうだ。けれどその手には乗らない、と咄嗟に思って。
 首を振って言うと、ユーリの瞳が大きく見開かれた。
 それからに、と笑って。
「それじゃ、食事の時間だな?」
 いただきます、と。
 低い声が響くその向こうで、子供たちの行列が続いていた。

さぁ、召し上がれ?

(それなら、仮装はしたくない)

  

  

出ていってほしいとは思ってないから。という。
ハロウィンを書いていたら気づけばユーリさんがヴァンパイアなパロに。おかしいなそんなつもりではw
今回は単発で続かないパロです。たぶん←
ハロウィンてもともと魔除け的なやつだったような。なにがどうなってお菓子もらうようになったのかわかんないけども
今回はヴェイグの一人称気味。あくまでも気味
一人称そのものよりは誰々寄りの三人称のが書きやすいのかな
131030