Eisblumelein:


 食堂に、なんとも言えない空気が漂っている。
 なんとも言えない、というのは過小表現かもしれない。少なくとも、入口まで来た利用者が踵を返すくらいには嫌な予感しかしない空気である。
 勇気ある者(生贄ともいう)が覗いた結果、中には2人の人物が確認された。1人は黒髪長髪の、剣においては一目置かれる戦闘狂。1人は蜂蜜色の髪をした、若干年齢詐称気味な腹黒眼鏡。
 つまり、ユーリとジェイドである。
 表向きはごく普通に向かい合って座っているだけなのだが、いかんせん放つ気配が普通ではない。
 果たしてその理由はといえば、
「いい加減、年甲斐もなく絡むのやめたらどうだ?」
「貴方こそ、そろそろ王女と真剣に向き合っては?」
 遠回しに批判し合っている二人だが、実のところ言いたいことは一つ。
『ヴェイグから手を引けよ(きなさい)』
 この一点に尽きるのである。
 いつからこうなったのかは最早覚えていないが、気づけば二人して笑顔のまま互いを貶し合っている。大人な分TPOは弁えているのだが、そのおかげで反動が大きい。だからこそたまにこうして条件が整うと、こんな事態になるのである。
 おかげで食堂は厳重警戒の態勢となっていた。
「おや、この年だからですよ」
「真剣もなにも、エステルはただの雇い主だ。関係ねぇよ」
 ジェイドがさも心外だ、という顔をすれば、ユーリがはん、と鼻で笑う。やっていることは貶し合いなのに、実力のある二人がやると恐ろしいのが不思議である。
 これを止められるのは驚くほど空気の読めない天然か、世界を揺るがすほどの大きな事件か、それとも。
「・・・どうしたんだ、二人とも」
 ある意味原因である、ヴェイグその人である。
 ディセンダーに連れられて朝から不在であったヴェイグが、昼を過ぎてようやく帰ってきた。
 帰ったら帰ったでユーリとジェイドが、と一斉に話をされて、けれどその内容ははっきりしない。わけのわからないまま、反対に全てを理解したらしいディセンダーが苦笑して、とりあえず行っておいで、とばかりに背を押すので。
 わずかに不安を抱えながら食堂に入って声をかけてみたら若干おかしかった空気はあっさり霧散して、ヴェイグとしてはますます意味がわからない。のだが。
「いや、なんでもないぜ」
「おかえりなさい、ヴェイグ」
「・・・ただいま」
 とりあえず笑顔だから大丈夫だろうと、流してしまうのである。
 それが二人の貶し合いを助長していることには当然気づいていない。
 騙されている、と見ている側は思うのだが、口にするとなにが起こるかわからない。命は惜しいから黙っていよう、というのが最早暗黙のルールであったりする。
 ヴェイグが戻ってきたことで機嫌を良くした二人が、おいで、とヴェイグを手招きする。
「なにか食べるか?軽いもんならすぐ作れるけど」
「お茶でもいれましょうか。アンジュが買ってきたケーキがありますよ」
 空いている席にヴェイグを座らせて、代わりに二人が立ち上がる。
 軽食にするかおやつにするかで再び見えない火花を散らす二人に、ヴェイグはいや、と短く返した。端的な答えはいつものことだが、今回はどうも素っ気なく響く。
「ヴェイグ・・・?」
 よく見たらそわそわしているというか、心ここにあらずというか、ヴェイグの様子がいつもと違っていて。同じような症状が出ている時を、聡明な二人は覚えていた。
「・・・だと思いました」
 やがてどこからか取り出されたピーチパイを嬉しそうに見つめるヴェイグに、ジェイドが小声で呟いて。それを受けてユーリが苦笑をもらす。
 けれどヴェイグが幸せそうにピーチパイを口に運ぶ姿を見ていると、まあいいか、なんて思ってしまうのである。

一番はピーチパイ

(・・・二人も、食べるか?)
(・・・!!)

  

一番はピーチパイだけどそれを分けてくれるなんてきゅん・・・!みたいな←
10000hitのリクエストで書かせていただきました、が。難しすぎてこんな出来ですみません・・・!
とりあえずこの二人はヴェイグの前では喧嘩してるとことかは見せなくて、二人してヴェイグをかわいいかわいいしてればいいなと思って
そういう意味でちょっと二人でしゃべってるシーンが長くなってヴェイグとピーチパイの出番がお察し下さい←
リクエストありがとうございました
本当に遅くなってしまって本当に(二度目)すみません!よろしければお納め下さいませ・・・!
131209