Eisblumelein:


 牛を牽く大変働き者の若者と、機を織る大変真面目な娘のお話。
 二人は大層愛し合い、それ故に勤勉さをどこかに置き忘れてしまいました。二人は仕事を放り出し、毎日毎日遊んでばかり。それに娘の父親は怒り、二人を大きな川の両岸に引き離し、一切合うことを禁じました。すると二人は互いに会えぬ悲しみに嘆き嘆き、仕事はおろか食事も喉を通らなくなってしまったのです。
 哀れな二人を見かね、父親は一つの条件を出しました。曰く、一年に一度、七夕の日にだけは二人が会うことを許すと。闇に横たわる星の川に橋を架け、若者が娘の元に訪れることを許すと。その橋を架けるのは天に住む鵲の群れ。けれど雨が降ると星の川は増水、氾濫し、鵲たちは橋を渡せなくなってしまうのです。

「・・・だから皆さん、七夕の日は、二人がきちんと会えるよう、雨が降らないように祈ってくださいね、だとさ」
 ぱたん、と絵本を閉じて、ユーリは溜息をついた。
 なんでこの歳で絵本なんて音読しなければならないのか。内心愚痴めいたものをこぼすが、口に出すことはない。代わりに、にこにこというよりはにやにやと笑っている(ように、ユーリには見える)フレンを睨んだ。
「兄ちゃんもっかい!」
「もっかいもっかい!!」
 腕白そうな少年が声を上げると、他の子どもたちからも一斉にアンコールがかかる。
 ユーリは口火を切った少年の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で、やらねーよ、と答えた。
「あっちのお兄さんのとこ行って短冊書いてきな」
 不満げな顔をする子どもたちに言って、指を指した先にはヴェイグとティトレイがいる。隣には大きな笹。テーブルに置かれた箱の中には、色とりどりの短冊が入っている。
 あの七夕伝説から何がどうなって願い事を書いて飾ると叶うという夢のような話になったのかは知らないが、楽しい行事はないよりはあるに越したことはない。
 ようし、こっちだぞー!というティトレイの明るい声と手招きに、子どもたちが反応して集まっていく。ユーリはその最後尾をフレンと共に歩いて、少し離れたところで立ち止まった。
「願い事は決まったかー?」
「うん!」
 オレサッカー選手!わたしはお花屋さんになりたい。
 無邪気な子どもたちの声を聞いていると、ヴェイグがふと視線を落とす。ぱちん、と瞬きを一つしてから、ひょいとしゃがみ込んでしまった。
 手前の子どもたちが視界を遮って、ここからだとなにをしているのかわからない。
 数歩近づいて、ユーリはヴェイグの様子を窺う。隣のフレンがくすりと笑ったが、気づかないフリをしておいた。
 しゃがみ込んだヴェイグが向き合っていたのは小さな女の子。どうやら字がわからなくて困っているという話をしているようで、ピンク色の短冊を差し出している少女に、ヴェイグは小さく首を振って。別の紙に手を伸ばすと、大きくゆっくりと字を書いた。
「自分で、がんばれるか?」
「・・・うん。ありがとう、お兄ちゃん!」
 子供用の小さなイスに座って賢明に願い事を書く少女を見守る、ヴェイグの表情は柔らかい。
 そんなやりとりを見ていたのかいないのか、子どもたちがヴェイグの周りに集まってきた。なぜかティトレイも混じっているのだが、・・・気にしたら負けなのだろう。
 書き上げた短冊を見せてみたり、横から抱きついてみたり、お下げを引っ張ってみたりと、無表情を怖がるかと思えばそんなこともなく。むしろ懐いている様子に、納得するやら嫉妬するやらである。
 ヴェイグの方もわかっているから怒らないし、子ども相手で対応も優しいものだから、余計に腹立・・・ではなく、微笑ましいというものだ。
「君の心の内が見えるようだよ、ユーリ」
「うるせぇな」
 フレンが小声で話しかけてくるのにすげなく返すと、気にした様子もなく肩を竦めて。それから苦笑を一つ零して、囁いた。
「君のおかげだろうね」
 ヴェイグがあんな風に笑えるようになったのは。
 思わずユーリが振り向いてフレンを見つめる。見返すフレンの瞳にはからかいの色はなく、ただ優しい色をしていた。
 なんとなく照れくさくなって目をそらすと、今度はヴェイグと視線が交わる。中途半端なところで佇んでいる二人を気にしたらしい。
 すぐに行く、と目で伝えると、ヴェイグは頷いて小さく笑う。
 笑う、と言うよりも微笑むと表現する方が相応しい表情に、ユーリは眩しそうに目を細めた。

笑顔のわけは

(オレだけじゃないだろうけどな)
(当然だろう)
(フレン・・・お前な・・・)

  

去年間に合わなくてお蔵入りしていた七夕のお話をサルベージ
子どもは純粋だから一見冷たく見えても優しいのわかるんじゃないかなっていう話ですたぶん
「とりあえず現パロでユーリさんを筆頭にみんなと親交を深めている内に公式「一見冷たく見えるが内に熱いものをry」からのそこまでじゃなくなったとか印象が柔らかくなったというかそういうヴェイグの話」を書いていたみたいなのであんまり七夕関係なかったですね!←
ユリヴェイだったはずがどっちかというかユリヴェイ前提だけどユリ→ヴェイなユーリとフレン、というわかりづらい感じに・・・
150707