Eisblumelein:


 これは多分、意図的だ。
 舞台に立ちながら、ユーリは確信する。とにかくヴェイグと、視線が合わない。
 自分は慣れたものだが、ヴェイグの参加は久しぶりだから、それとなく様子を見ようとは思っていたのだ。それとなく、ということは当然気付かれないようにという意味を含むのだが、それにしても合わない。気配には敏感な方なのに、だ。
 代わりにこちらに視線を感じることはある。あるのだが、それを感じて視線を向けても、やはり合わない。
 例えばヴェイグがユーリの存在に慣れすぎて、というのであればそれはそれでいい。いい、というかむしろ歓迎すべきことである。喜ばしいこと、なのだが。
 今回のこれは明らかにアウトだ。
 ユーリはそれなりの表情を貼り付けながらヴェイグを窺う。
 件の彼は相棒と出店の話をしているところだった。親友、というだけあって二人の間には遠慮というものがない。
 容赦ない突っ込みと少々冷たい対応。慣れているのだろうティトレイが堪えている様子はなく、むしろ軽口を返している。
 信頼がなせる業かね、と、柄にもなく嫉妬した。
「・・・」
「!」
 自然と出てくる溜息を吐息にすり替えながら、なんとはなしに再び視線をやったその先で、確実に交わった。
 ばち、と音がしたくらい顕著に。そして。
(明らかに、あからさまに、そらした)
 ここまでくるとショックや傷心を通り越して逆にイラついてくるから不思議だ。
 原因が何かはわからないが大人げない。こちらもTPOは弁えているつもりだし、舞台上で不機嫌は出さない。
 ユーリの機嫌が悪くなったことに気付くのは隣のエステルくらいだろうか。心なしか表情が不安げになる。
 それに肩を竦めることで返して、ユーリは客席を見つめた。

「ヴェイグ」
「・・・ユーリ」
 盛況の内に幕を閉じた一日目。
 舞台裏で水の天族と言葉を交わしている(同じ水属性同士通じるところがあるのだろうか)ヴェイグに声を掛ける。
 おつかれさん、と二人に向けて言いながら、逃がさないようにヴェイグの腕を掴んだ。
 きゅ、とヴェイグの眉が寄って、ミクリオが不審げな顔をした。けれど割って入るべきではないと察したらしく、口を開くことはない。
 さすが空気の読めるやつだな、と内心でほめておいて、ヴェイグの腕を引く。
 話しがあるんだけど、と軽い口調で言って逆に逃げ道を塞いだ。
 そのまま歩き出すと、しぶしぶといった様子でヴェイグが半歩後ろをついてくる。
 自分の控え室に入って(エステルがいないのは確認済みである)、壁に追い詰めた。
「なにが言いたいか、わかるよな?」
 いわゆる壁ドンなる体勢で首を傾げてくるユーリに対し、ヴェイグの視線は冷ややかだ。わりと本気で凄んでいるにもかかわらず、表情一つ変わらない。
 なにかおかしい、と思いつつ、感情に流されるのが人の常である。たとえそれがユーリでも。
「ずいぶんあからさまに無視してくれて、ちょっと気が立ってるんだよな、俺」
「・・・・・・自業自得だ」
 このまま噛み付きでもしそうなユーリをヴェイグはただ一瞥する。
 それから長い沈黙の後、ひたりと返された言葉に、ユーリは思わず目を瞬いた。
 自業自得とはつまり、原因がこちらにあるということだ。なんでもかんでも人の所為にする人種もいるが、少なくともヴェイグはそういう人間ではない。むしろどちらかといえば自分の所為だと考える側の人間である。
 そのヴェイグがこう言うのであれば、原因は自分にあるのではないかと、ユーリは思い始めていた。
 壁についていた手を緩めて、深呼吸を一つ。
「・・・悪い。なにがあったか教えてくれるか」
「・・・・エステルのことを、褒めただろう」
 冷静さを取り戻したユーリに、ヴェイグが言った。
 エステル?と首を傾げて、イベントの冒頭を思い出す。たしかゼロスがエステルに何か言って、それで。
 いつもきれいだぜ、なんて。
 確かに言った。ユーリにしてみれば、あれは冗談というか社交辞令というか、軽口の一つのつもりだったのだ。いつもなら言わない類の軽口ではあったのだが。
 会場も沸いたし、冒頭の盛り上がりとしては上々だと、思っていた。
 それがこんなところで弊害を招いていたとは。聞いた側がどう思うかはその人次第だということを失念していた。
「・・・つまり、妬いた、ってことか?」
「・・・・・悪いか」
 自己嫌悪に陥っていたユーリは、ふと思い至ってヴェイグを見やる。
 ユーリの仮説に対して、今度はバツが悪そうに目をそらして、ヴェイグが呟いた。どこかふて腐れているようにも見える。
 先ほどまであれほど冷めた表情を浮かべていたのに、あっという間に照れにも似た色を浮かべたヴェイグを見て、力が抜けた。
 大きく息をついて、ヴェイグの肩口に頭を預ける。自業自得だとか勘違いが恥ずかしいとか思うことは多々あるものの、とりあえずは。
 安心した。
「安心?」
 心の底から思ってくぐもった音を発すると、不思議そうな声が降ってくる。
 まるで思ってもみなかった、という響き。
「オレのせいって確実なわけだし、気をつけられる」
 なにか取り返しのつかない原因があったわけじゃないってわかったからな。
 ユーリはそう続けて、顔を上げる。それからす、と距離を取り、
「悪かった。誤解させて」
 頭を下げる。
 目を見開いたヴェイグはそれからきゅ、と唇を引き結び。
 今回だけだ、と許しを与えた。

口は災いの元

(埋め合わせはどうする。どうしたい?)
(・・・ピーチパイ)
(任せろ。飛び切りのやつ作ってやる)

  

ユリヴェイがイベント中に一言も口を聞かなかったって言うじゃん?
ユーリさんエステルといちゃいちゃしたっていうじゃん?ヴェイグ当然横で見てたじゃん?
そりゃあおこになりますよ話しかけるなオーラでますよっていう流れとしか考えられない(生粋のユリヴェイ脳)
ティトレイへの当たりが強かったのも半分はやつあたりですよねそうですよねってなるじゃないですか
ティトレイ本人は理由は分からないし下手したら八つ当たりされてることもわからないかもしれないけど心広いから許してくれると思うんだ
で、そういうのを目撃してユーリさんが勝手にテンション下げるっていう・・・迷惑!(笑) ちなみにわたしはイベント未参加のため全て聞きかじった知識ですw時系列もぜんぜん分かってないのでそういう流れじゃなくても見逃してあげてくださいw
久しぶりすぎてユーリさんのキャラがぶれてる感あるけどもともとわたしの中のユーリさん男前に過ぎるからバランス取れてるってことで←
160721