Eisblumelein:


 裾の長さを持て余しながら、ヴェイグは走っていた。
 足首まであるスカートは足を動かす度にまとわりついてスピードが出ない。女になったことが関係しているのか体力がだいぶ落ちているし、いつの間にか見知らぬところに迷い込んでいた。
 そもそも船を下りてからユーリについて歩いていただけで、ヴェイグにはこの町に関する知識は一切ないのだ。
 けれど。
「あいつと一緒にいるわけには、いかない」
 ヴェイグは立ち止まり、息を整える。
 こんな理不尽な別れ方をされれば、ユーリもアドリビトムに戻る気になるだろう。エステリーゼを守るのが彼の本来の役割であり、そのためには自分に構っている暇などないのだ。
 気を悪くさせたかもしれない。元々特別親密なわけではなかったが、もう口も聞いてもらえなくなるかもしれない。
 ヴェイグは口の端に苦笑にも似た笑みを浮かべた。内側でなにか弾けるような、そんな気分だった。苦みを帯びた小さな棘に傷つけられているような。
 思わず自嘲の溜息をついて再び歩きだして。
「ッ?」
「こんなところに一人でいたら危ないぜお嬢ちゃん?」
 がくん、と腕を引かれて止まる。見るからに柄の悪そうな男たちがいつの間にか周囲を取り囲んでいた。
 捕まれた腕に力を込めるが、ほとんど動かない。いつもなら相手にもならない奴らだが、どうやら今は勝手が違う。
 ヴェイグは男たちに向き直り、用件を問いた。
「俺たちが大通りまで送ってやるよ」
「いや、そんな必要は、」
 ない、と言い切る前に強く腕を引かれる。バランスを崩して身体が傾いだ。
 腕が腰に回り、ぐい、と引き寄せられる。にやにやと笑う男が見えた。
「やめ、」
「大丈夫だって、心配すんな」
 なぁみんな?あたりまえだろ。
 もがいても腕が外れることはない。女であるという事実が、これだけ身の危険を感じるとは思わなかった。
 寒気がする。顎を捕まれ、男の顔が近づく。
 もう駄目だ、と柄にもなく思った瞬間、
「よぉ、なにしてんだアンタら?」
 聞き覚えのある声がして、目の前の男が視界から消えた。目を見開いた先で男たちが次々に殴り倒され、走って逃げていく。
 ふぅ、と一息ついて、彼は振り返った。
「・・・ユーリ、」
「馬鹿野郎!」
 びくん、と思わずヴェイグの肩が跳ねる。
 ユーリはその肩をつかんで、言葉を続けた。
「なんでこんなところに入った。危険なことぐらいわかるだろうが」
「それより、どうして・・・」
 助けてくれたのだということよりも、彼がここにいることに対する疑問の方が大きかった。
 ヴェイグは見たことのないユーリの剣幕に押されながら、けれど表情に変化は見えない。
 それを見たユーリは一度小さく舌打ちをして、細い腕を引いた。

身の危険

(助けにきて、くれたのか)

  

絡まれたりしたようです。こういうの書くの苦手なんだなぁと思いつつ
そういえばヴェイグさんの格好はイメージしていただく方向でお願いします←
とりあえず裾は長い(笑)
ユーリさん間に合ってよかったね!
111126