Eisblumelein:


 前にも言ったが、ヴェイグが弱いと思っているわけではない。
 これといって目立つ筋肉があるわけではない身体で大剣を操る姿に不安は感じないし、戦闘時の判断力も申し分ない。
 ただし、それはいつも通りだったときの話で。
 ヴェイグは今の姿で戦ったことはない。男の時と同じ戦い方では勝てるものも勝てない。
 別に女が弱いと差別する気はさらさらないが、実戦慣れというものも戦闘には大きく関係してくるのである。
「大体、今の筋力で大剣使えんのか?」
「・・・・」
 ほらな。
 押し黙った(元々静かではあるが)ヴェイグにユーリは続けた。
 使えないわけではないだろうが、どの程度まで筋力が下がっているのかわかってはいないだろう。自身の手をじっと見つめているヴェイグをちらりと見やる。
 ユーリは不意にその手をつかみ、軽く力を込めた。
 完全に油断していたらしい身体が後ろに倒れて、細い背中がベッドに受け止められる。衝撃にシーツが波打って、安いスプリングがギシリと鳴った。
 それぞれの手が手を掴み、頭の横に押しつける。身体を跨いでヴェイグを見下ろすと、ユーリの黒髪がさらりと流れた。
「・・・ユー、リ?」
 瞬いた瞳が、不思議そうに名を呼んでくる。
 ユーリは黙ってヴェイグを見下ろし、ついでに顔と顔の距離を縮めた。
 至近距離で見つめ合い、しばらくの沈黙。
 外を走る子供のはしゃぎ声が聞こえたところで、ユーリは小さく息をついて体を起こした。反応を返したユーリにヴェイグが注目する。
「・・・手、どけられるか?」
 落とされた言葉に掴まれた手を動かしてみる。僅かに体勢を崩しただけで、どけられそうになかった。
 首を振って不可を示すと、ユーリが頷く。それだけ筋力が落ちているということ。
 わかったか?と尋ねられて、ヴェイグは不本意ながらそれを認めた。
 確かに、思ったより力が出ない。そういえば、あのときもそう思い知ったのではなかったか。
 考えながら再びユーリを見やる。すると近づいてきた整った顔。
 今度は先程より近く、焦点がずれてぼやけてきたところで、唐突にそれは離れた。
「ヴェイグ」
「・・・なんだ?」
「・・・少しは抵抗してくれよ・・・」
 手を解放してヴェイグからどいたユーリが、片手で顔を覆って小さく呟いた。無防備にもほどがあるだろ、という言葉は飲み込む。
 あの体勢までいけば男だろうが女だろうが関係ない。大体今は女なのだから最低限の危機感は持ってほしいと、ユーリ的には思うのだ。
 それだけ心を許しているということなのだろうか。うれしいことではあるのだが、なんとも複雑である。
 さて、気を取り直して。
「自覚したか?」
「・・・ああ」
 身体を起こしたヴェイグに問いかける。頷いたものの不満げな表情に苦笑して、その肩を叩いた。
 だったら行くぞ、というユーリの言に、ヴェイグは小さく首を傾げる。
 ユーリが言いたかったのは行ってはいけない、ということではない。もともと依頼は討伐や護衛の類ではないのだ。
 ただ手に入りにくいものを頼まれたというだけで、魔物が手強いというわけでもない。だから無理さえしなければ、連れていくことに反対はしない。
 時間がかかるだけで難しい依頼ではないし、意識さえしてくれればいいのだ。
「ユーリ、」
「ん?」
「ありがとう」
 どういたしまして、と軽く返して、ユーリは小さく笑った。

無防備な彼女

(・・・けどお前、もうちょっと危機感持った方がいいと思うぜ)
(危機感?)
(いや、なんでも)

  

なんか、ユーリさんご乱心w
ようやく女体化っぽいなにかが、あるともいえないけど←
そろそろ収束に向かいたいんだけど、予定は未定です
120119