Eisblumelein:


 なんとか依頼の品は見つけられたものの、二人が町に戻ってきたのは夜も更けた頃だった。
 宿屋に戻ってきたヴェイグは、先に部屋に戻るユーリの背を見つめた。
 コーヒーが飲みたいのだと無理矢理理由をつけたけれど、お互い疲れていたから追求するところまで至らなかった。そしてそれは、ヴェイグにとっては好都合だった。
 共に部屋に戻って、こんなことが考えられるとは思えない。
 一応先程の自分の言葉に従って、食堂でコーヒーを頼む。ポットに入っていたものが出てきたらしい、そんなに熱くもないコーヒーに、けれど不満を呈すこともなく口をつけた。
 味を感じる余裕もなく飲み干して、溜息。

 これが好きという感情なのだということには、既に気づいていた。
 やけに女物の買い物にも慣れている様子と、その理由がエステルだったこと。それに気づいたときに生じた胸の痛み。
 追いかけてきてくれたときにうれしかったのも、不機嫌な様子にやっぱり胸が痛んだことも。
 フレンから聞いた昔の様子が気になったのも、おかえり、というその言葉が心に沁みたのも。
 全部ユーリが好きだからという理由に他ならないのだと、気づいていた。おそろい、なんて言われて柄にもなく動揺したのもそう。わかっていた。
 たまに落とす溜息が気になるのも、そういう感情から来ていること。
 男だろうと女になろうと、自分は自分なのだ。根本はなにも変わらない。女だからそう思うなんて一過性のものでないことは理解している。
 このまま戻らなければ、彼は一緒にいてくれるのだろうか。そんなくだらないことを考えてしまうほど。
 戻るのが嫌だなんて言えるはずも、言ったからといって叶うはずもないのだけれど。
 戻らなければいいのにと、女でいられればいいのにと。
 部屋のドアに手をかけてまで、思っていた。
 けれど。
「・・・どうすればいいんだろうな」
 部屋の中から聞こえてきた声に、心が悲鳴を上げた。

心の軋み

(聞こえなければ、よかったのに)

  

いきなり話が動きすぎてがっかり感がすごい←
ヴェイグが乙女思考なのは身が乙女だからですたぶん
120407