ヴェイグは目を見開いた。
ユーリ本人も驚いていたようだったが、すぐに溜息をついて。ゆっくりと伸びた手が、ヴェイグの肩を掴んだ。
どうしたらいい。この手を払うべきなのか、否か。やめろと言うべきなのか、否か。
見開いた目を閉じることも忘れて、ヴェイグはぐるぐると考える。
ユーリの手に僅かに力が入る。口が開かれようとしている。
どうしたらいい。そこから紡がれる言葉を聞いていいのか、いけないのか。わからない。
やがてゆっくりと、ユーリの口が開いた。
「好きだよ」
「・・・っ、」
「オレはおまえが好きだ。そういう意味で」
わかるよな?
力が抜けて、瞳が閉じる。再び瞼を上げたヴェイグは長く黙ったまま、ユーリの目を見つめた。
まっすぐこちらを見てくる黒には、嘘は感じられない。感情の揺れも見つけられない。
だからさらに、わからない。
ユーリはなにも言わずに、ヴェイグが答えるのを待っている。
ヴェイグは細く細く息を吐き出して、
「・・・気のせいだとは、」
「思わない」
無理矢理捻りだした小さな声は、すぐに否定された。
その言葉にも、どうやら嘘はない。疑っているわけではないのだけれど、信じてはいけないのだと。そう思った。
これは嘘になるのだ。本当なのはきっと今だけ。今はこんな状況だから、勘違いする。
だって、ユーリが自分なんかを好きになるはずがない。自分の形が女だから、だからそう思ってしまったのだ。
信じなくてもいいように、気のせいだと、そう、言ってくれ。
「・・・ユーリ、頼むから・・・」
「ヴェイグ、?」
「嘘だと、・・・」
言ってくれ、という言葉は声にならずに消えたけれど。
ユーリはその言葉に目を見開いた。それを見たのか見ていないのか、ほぼ同時に困惑に、・・・不安に揺れていた瞳が隠れる。ヴェイグがユーリの返答を拒むように目を閉じたから。
ユーリはそれをじっと見つめて、立ち上がる。気まずい沈黙は僅か。
「悪かった、忘れてくれ。・・・明日には戻ってるといいな、おやすみ」
先程とは打って変わった明るい調子でユーリは言って、部屋を出ていってしまう。
部屋は一つしかとっていないはずなのに。けれど逃げてしまった手前、引き留められなかった。
それからすぐに、自分が出ていけばよかったと気づいた。きっとユーリを傷つけた。
かちゃりとという静かな音を聞いてからヴェイグはゆっくりと目を開けて、天井を見上げる。ドアが閉まる振動で、設置された灯りが揺れていた。
悪かった忘れてくれと、彼は言った。忘れてしまえるはずがないのに。
・・・それなら、最初から言わなければよかったのに。
思わず出た溜息とともに、ヴェイグは再び目を閉じる。閉じる直前に灯りが滲んで見えていたのは、きっと気のせいだ。
(涙なんて、)
告白話
とにかくタイミングが悪かったのです
120621