Eisblumelein:


 部屋を出たユーリは、閉めたばかりのドアに背を預けて息を吐いた。
 まずった、そう思った。
 ハロルドの仮説が本当ならば、ヴェイグは明日にも元に戻る。依頼は既に終了しているし、戻れば帰るのを残すのみだ。彼女の頭脳は本物だし信頼に値するから、もはや戻るのは確実と言っていい。
 だから、今言わなければもうそんな機会は訪れないと思い至ったところだった。
 船に戻れば、きっと前に戻るんだろう。用事がなければきっとあえて話しかけることもない。用事なんて、ほとんどないのに。
 どうしようかと少々悩んでいたところに、本人からお達しがきた。
 当たり前ではあるのだ。元々特別な関わりはなかった。
 だからヴェイグは「わざわざ」「無理して」つきあってくれたと思ったし、ユーリ本人にしても最初はつきあっただけだった。礼を言うのはヴェイグでなくとも当然のこと。
 けれど問題はその後だった。船に帰ったら無関係になると、無関係でいろとヴェイグ本人が言った。ヴェイグに限ってそんなことはないだろうが、まるでもう終わりと言われたような、そんな言葉。それに思わず声が出て、そうなったら引けなくなった。
 勢いあまったその結果が、これだ。
「仕方ねぇ、って簡単に言えれば楽なんだけどな」
 言えるはずがない。言えるなら、そもそも告白なんてしない。
 勢いでは、あったけれど。嘘だと言えと、ヴェイグは言った。信じたくないのだと、そう。
 ならばこれは、拒絶なのだ。
 たとえ今が女であっても、元は男だから。男に告白されるなんてごめんだと思っていたのかもしれない。不快に思ったのかもしれない。
 だからあのとき、忘れてくれとしか言えなかった。忘れてくれたなら、せめて友人ではいられるかもしれないなんて、自分を守ることを考えた。
 おかげで、もしかしたらヴェイグはさらに拒絶を覚えたかもしれない。
 最悪な想像しかできずに、ユーリははあ、と溜息をついて顔を覆った。
 とりあえず、フレンのところにでも行くか。
 思って顔を上げる。部屋に戻るだけの勇気はない(気まずいし、出て行けとでも言われたらものすごいダメージだ。自分が悪いのはわかっているけれど)。かといってここで一夜を明かすのも怪しすぎる。外で時間を潰すにも限界があるし、新しく部屋を取るのも馬鹿らしい。
 となれば幼なじみのところに転がり込むしかあるまい。フレンならなにも聞かずにすぐさま追い出すってことはないだろう、・・・たぶん。
 案外嫌な予感に襲われながら、ユーリは宿屋を出る。

  

 予想は外れて、フレンは快くユーリを迎え入れた。
 溜息混じりの苦笑が快いと言えれば、だが。
そうして尋ねられた理由を話したユーリは、呆れ全開のフレンに訥々とお説教をされることになる。

自嘲

(ユーリ?なにしてるんだいこんな時間に)
(いや、ちょっと、な)
(・・・またなにかやらかしたのかい、君は)
(・・・否定はしねぇ)

  

オチに持って行こうと思ったら随分急展開に
このあとユーリさんはフレンさんにぼこぼこにされると思います、口で
しかしどう落とせばいいのか・・・←
ユーリさんは頭いいし大人なので取り繕ったり誤魔化したりできる。ヴェイグはできない。そういうイメージ
101207
加筆修正 120707