Eisblumelein:


 本当に嫌気が差したのだと思った。
 同じ空間にいるのもつらいのだと、そう考えて、ユーリはヴェイグに会うのを避けていた。
 ただでさえ会わなかったのだ(ヴェイグの側に原因があると知ったのは、ずっと後のことだったけれど)、気をつければ会わないようにするのは容易い。ヴェイグはあまり船内をふらふらするタイプではないし、そういう意味ではユーリも同じだ。
 だからなるべくヴェイグを避けて、ユーリは依頼に参加することを心がけていた。
「ユーリ、なんだかいらいらしてます」
「ん、そうか?」
 先ほどの戦闘で負った傷(大したものではないのだが)を治療しながらエステルが言った言葉に、ユーリはとぼけて見せた。
 とぼけた、という表現からわかるように、エステルの言葉は的を射ている。たしかに苛ついているのは自覚しているのだ。
 避ける、という行為はなかなか精神を削る。嫌いなものを避けるならともかく、そうではないのだからなおさら。おかげで中にわだかまるものを発散するために、衝動的に力技で剣を振るようになって、小さな傷が増えた。
 珍しいわね、とはよく言われたが、いらいらしてると言われたのは初めてだった。
 お姫様はよくわかっていらっしゃる。内心思いながら、ユーリは肩を竦めた。
「あんまり考えすぎない方がいいです」
「わかってるよ」
 あえてエステルが理由を聞かないのは、結構滅入っているのを感じているからなのだろうか。なんだかんだで長いつきあいだ。
 そうであるならば侮れないな。ユーリが溜息を隠して返すと、エステルは小さく頷いた。
 同じように見かねたらしいディセンダーに帰ろう、という指示を受けて、船への帰路を辿る。
 ヴェイグはなにをしているだろうか、なんて確認できそうにないことを考えながら甲板を見やり、目に入った光景に思わず足を止めた。
 風に煽られた白銀の三つ編みは、ヴェイグだろう。向かい側にいるのは金髪と、甲冑と同じくやはり白を基調とした軽装。見間違えることはない、幼なじみの姿。
 その腕が三つ編みごと大剣を扱うにしては細い身体を包む。ヴェイグの腕は動かないから、突然の行動なのかもしれない。
 それから一つ二つ言葉を交わして、片腕が外れた。
 その手がヴェイグの頬を撫でて、顔が近づく・・・
「フレン!!」
 まるで劇でも見せられているかのような、その動きを呆然と眺めていたら、頭より先に身体が動いた。
 驚くほど低い声で幼なじみの名を呼んで、気づいたら二人の目の前まで走っていた。殴らなかったのは、まだ理性が働いたのだろうか。
 ヴェイグが瞠目している。避けるという行動が頭を掠めたけれど、もうそんなことに構ってはいられない。
「どういうつもりだよ、フレン」
「どういうつもりでもないよ。少し確かめたかっただけだ」
 珍しい剣幕で迫っているにも関わらず、フレンに動じる様子はない。慣れている、といわれればそれまでだが。
 で、なにが確かめられたんだよ。
 いつもより低い声で問うと、フレンが好戦的な笑みを見せた。
「君には関係ない」
「・・・ッ!」
 ユーリは舌打ちを一つもらしてフレンから目をそらす。ヴェイグに視線を向けると、びくりと肩を震わせた。
 それすら、神経を逆撫でる。嫌われているのかもしれないが、もうそんなことはどうでもよかった。
 ヴェイグの腕を掴み、フレンから引き離す。そのまま入り口に向かうユーリに、ヴェイグは引きずられるようにしてついていった。
 後ろで溜息をついたフレンに、エステルが駆け寄る。
 ただならぬ空気に不安げな表情を浮かべる少女に、大丈夫ですよ、とフレンは優しげな笑みを見せた。

邂逅

(フレン・・・?)
(大丈夫、すぐ元のユーリに戻りますよ)
(そう、です?)
(ええ)

  

フレンさんがいい仕事しすぎてわたしはどうしたらいいのか
なんだかんだでユーリさんのことを一番わかってるのはフレンなのかなと
次くらいで終わる予定なのでもう少しおつきあいください・・・!
121117