「こんにちは」
「あら、こんにちは」
食堂に入ってきた見知らぬ顔に、けれどクレアは笑顔を返した。
新しくギルドに入った人だろうか?青年は同じように笑みを浮かべて、クレアの元に歩み寄る。
とりあえずお茶でも用意しようかと背を向けたところで、ああ、と合点が行ったような声が聞こえた。
それに内心首を傾げながらもティーセットを用意し、クレアは紅茶を入れる。
時間があるなら話をしないかい?なんてナンパにも似た誘いを受けて、クレアは向かいに座ることにした。
「君がクレアかい?」
「ええ、そうですけど・・・あなたは?」
「ああ、失礼。フレンだ、ユーリの幼なじみ、かな」
ユーリの幼なじみ、という言葉を聞いて、クレアが表情を明るくする。どうやらその言葉だけで理解したようだった。
聡明な人だ、と内心思いつつ、フレンは笑みを浮かべる。
ヴェイグはクレアにはすべてを話しているだろうし、彼女の様子から言ってどうやらうまくいったようである。
「ユーリのこと、頼んでもいいかな」
「私にできることなら」
クレアに頼むというのも妙な話だが。
にこ、と笑ったクレアが頷いて、それに対してフレンも頷く。
ユーリは大人であるし、今更自分がどうこう言う問題でないことはわかっている。のだけれど。
幼なじみとしては、いつまで経っても根無し草のような彼は未だ心配の種なのである。
と。
「よぉ、フレンじゃねーか?」
噂をすれば、とでも言うべきか、件の青年がやってきた。隣には晴れて恋人になったヴェイグもいる。
なにやってんだ、と首を傾げるユーリを見て立ち上がると、その横をヴェイグがするりと通り過ぎていった。
まっすぐにクレアの元に歩み寄り、ヴェイグは何事か口にする。それにクレアが微笑んで・・・、という、一連のやりとりを目にしてユーリはかすかに眉を寄せた。
そんなユーリを見て、フレンは思わず吹き出す。向こうの二人に聞かれていなければいいけれど。
ちらりと窺うが、二人が気にする様子はない。よかったと視線を戻すと、ユーリが不機嫌そうな顔でフレンを見ていた。
「なんだよ」
「いや・・・クレアさんにはまだ適わないんだなと」
「うるせーな」
くすりと笑みをもらすと、ユーリが憮然として悪態をついた。
仕方がないのだ。ヴェイグにとってクレアは特別な存在であるし、ユーリとしても彼女には世話になった。
クレアが聡明な人であることはわかっている。仲間としてもそう思うのだから、家族であるヴェイグがことさら大事に思うのも当然のこと。
と、わかってはいるのだが。理解することと納得することは別のことなのだ。
そこまでわかってるなら、心配することはなさそうだね、なんて苦笑にも似た笑みを浮かべるフレンは、ユーリが考えていることなどお見通しなのだろう。
フレンは一度ヴェイグとクレアの方を見てから、脇に立てかけていた剣を掴んだ。どうやらもう行くらしい。
忙しいな、騎士様は。
皮肉か本音か、軽口を叩くユーリにフレンはまあね、とさらりとかわす。
「それじゃ、末永くお幸せに」
「言われなくても」
手放す気なんてねぇよ。
出て行くフレンに返すと、後ろ姿が肩を竦めた。
(ふふ、)
(・・・どうしたんだ、クレア?)
(ヴェイグったら、そんなにむくれないの)
(別にむくれてない)
(・・・ふふっ)
(っ!)
いらないかなーと思いつつ、プロローグがあるならエピローグもあった方がいいなという
フレンとクレアはユリヴェイ関連で仲良くなったらいいなぁと思いました
長編はこれでおしまいになります!
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