「んー・・・かわいこちゃんはいないかなー」
緩く波打つ長髪をなびかせて、ゼロスは歩いていた。
船にもかわいい子は多いけれど、やっぱりナンパはしたい。
そもそもあの船のハニーたちはガードが堅すぎるのだ。相当鈍いか興味がないかすでに心に決めた相手がいるか、大体がそんな感じで、引っかかる子がなかなかいない。
そうなると、ふつうの女の子に騒がれたい。そんな気になるのも仕方がないというもの。
というのはゼロスの談であるが。
とにかくそんな理由で、彼は停泊中の港から町に繰り出してきたのである。
ごった返す通りを歩きながら、お眼鏡に叶う女の子を捜す。外見がかわいくてもかわいくなくても彼にとってハニーはハニーなのだが、やはりナンパするなら見た目もかわいい子がいいらしい。
「・・・っかし、随分人の多い通りだな」
歩きづらくてしょうがない。ちょっと多すぎやしないか、と。
ま、それでもオレ様の美貌が陰るわけじゃないけどな。
なんて軽い独り言を言いつつ、辺りを見回した。ふと、視界の端を何かが掠める。ぴくり、眉が動いて、ゼロスは振り返った。
どうやらセンサーが反応したらしい。視線の先には空と同じ色の服を纏った女性。
「これは・・・!」
ゼロスは先ほどまでぼやいていたのが嘘のようにあっと言う間に人混みをすり抜けると、彼女の斜め後ろに立った。
真後ろに立つのは怪しいし、真横では声をかけづらいからである。
空色に映える長い白銀の髪は緩やかに三つ編みにされ、ちらりと見える横顔の睫は長く。
うーん、超オレ様好み。こんな子がいるなんてここも捨てたもんじゃないな、と多少人混みに嫌気がさしていたゼロスは思う。
それから彼女の視界に入るように少々移動して、
「やあ、会いたかったよハニー」
ゼロスに反応して振り向いた少女は、数度目を瞬かせて、それから瞠目した。
その様子にゼロスは内心首を傾げる。あれ、オレ様この子に会ったことあったっけ?・・・いやいやいや。こんなかわいい子一回会ったら忘れるはずないし。
頭の中でぐるぐると考えながら、けれど表情は笑顔のままで。見開かれたままの薄青い瞳を見つめた。
「ハニー?」
目の前の少女は我に返ったように目を僅かにそらす。
それから小さく眉を寄せてみたり、口を開きかけてみたりして。
やがて言った言葉は。
「・・・人違い、じゃ」
遠慮がちに響いたその言葉に、ゼロスは思わず目を瞬かせる。
人違い。知り合いに声をかけたのだと思われたのだろうか。
確かに通常ハニーは初対面に使う言葉でもなければほいほい使うような言葉でもないが。
ナンパってそんなもんだろ?他の子はみんなふつうに返してきたし。
あまりこういうのに慣れていない子なのだろうか。それならもうちょっと正統派にいった方がいいか。
「いやいや、君がかわいいからつい口から出ちゃっただけだよ。ところで」
「失礼、私の連れになにかご用ですか?」
一人なの?と聞こうとした瞬間肩に置かれる手。同時に少し嫌な予感。
振り向いた先に、眩しいくらいの金髪。
げ、と思わず声が漏れた。青年はともかく、彼女には届いていないだろう。たぶん。届いていないといいなぁという、半ば願望である。
青年は金髪を短めにカットし、柔らかな笑顔を浮かべている。柔らかな、とはいいつつその目は正直笑っていない。
ほんの少しだけ険しい光を宿している。
「・・・いーや、なんでも、」
ないです。
男相手にひるむのはポリシーに反するものの、こういうタイプの人間は苦手だった。真面目一直線なタイプ。
派手に怒ったり無表情だったりはつきあい的に得意なのだが。
「そうですか。それじゃあ行こうか」
「・・・あ、ああ・・・」
青年はごく自然な動作で白銀の髪を持つ少女の肩に手を回した。
その手にさりげなく力を入れて、ふわりと身体を反転させる。少女は困惑気味にゼロスを見やったが、そのまま視線を戻した。
なにも言わずにそれを見送ったゼロスが、しばしの後顔を覆って溜息をつく。
「似合いすぎだっつーの・・・」
声をかけた女の子に彼氏がいることはたまにあった。その気はなくとも自分が別れる原因になってしまったことも。
ゼロスとしては大抵の男には勝てると思っているし、ほとんどそれは間違っていなかった。
のだが。
今回に関しては、完全に完敗だった。
青年の金髪と少女の銀髪はあまりにもお似合いで、間に入れるような隙は微塵もなかった。
人混みに紛れて消えた後ろ姿を思い出して、ゼロスは再び溜息をついた。
船に戻って数日後、彼がそっくりな銀髪を見つけたのは、また別の話。
(大丈夫だよ。向こうはお遊び気分の軟派男だったからね)
(・・・いや、そうではなくて、知り合い・・・)
(次に同じことが起きたら問答無用でたたきのめしてあげるから)
(・・・フレン?)
(知り合いでも、ね?)
(・・・・)
ゼロス君によるナンパ失敗の図←
フレンがいいとことっていってるなんてユーリさんには秘密ですw
デート・・・じゃなくて町ご案内の途中
これから船でヴェイグを見かけてあら?ってことになるわけですね
そういえば金銀は似合うと散々言ってますが、ヴェイグとクレアも金銀だよね(どうでもいい話)
なにがしたかったかってゼロスくんにヴェイグをほめてもらいたかっただけです
ついでにゼロ→ヴェイへの布石。ゼロヴェイにはたぶんならないw
フレンさんは軟派とか嫌いだと思う
100827