Eisblumelein:


 ある昼下がり。
 暇を持て余してぶらついていたゼロスは、珍しい人物を見つけた。
 ガレット村から来たという青年、ヴェイグ。甲板の端に腰を下ろしている。
 男に興味はない。ないが、彼に関しては少々別だった。
「どーも。・・・って、あら?」
 ひょい、とのぞき込んだ白銀の下、瞳は閉じられ、規則的な呼吸が聞こえた。
 寝てる?と小声で尋ね(尋ねたところで聞こえないのはわかっているが)、返事がないのを確認する。
 珍しく甲板にはほかに誰もいない。だから少しくらい自分に似合わないことをしていても誰もなにも言わないだろう。
 思って、ゼロスはヴェイグの目前でしゃがみ込んだ。指を伸ばして、前髪に触れる。その色の本質を示すように、さらりと髪が指から逃げた。
「さらっさらだねえ。ハニーたちが嫉妬しそう」
 ゼロスは呟いて、今度は顔をのぞき込む。
 閉じられた瞼を飾る髪と同じ銀色の睫に、それを際立たせる少々濃い色の、けれど肌理細かい滑らかな肌。それと血色のいい薄い唇。
 どれもこれも女性が羨むものばかりだ。今は見えない瞳は確か薄い青。銀色の睫が薄青を彩るその様はどんなに美しいだろうか。
「負を流す儀式、か」
 デートに誘ったら答えてくれて、驚喜したのに遺跡モードだったリフィルを思い出す。
 たぶん新しく収集した知識を誰かに話したかっただけなんだろう。
 耳半分で聞いていたゼロスは、けれど途中から目を・・・いや耳を離せなくなった。
 存在さえ知られていなかった儀式の詳細を聞き出したというのだから。女の子にしか興味がなかったとはいいつつも、神子としては気になった。だから根掘り葉掘り彼女から聞き出し(反応があって嬉しかったのかとても上機嫌に答えてくれた)、一夜明けて目の前に当事者となれば、興味を持つのは当たり前のこと。
 というレベルだったのだが、よくよく見れば非常に整った顔をしていた。それはもう女性であれば誰もが放っておかないくらいには。ただし愛想が良ければの話だが。
 そしてゼロスの中では、彼にはまた特別な意味があった。
 町に降りたときに見かけた美人のそっくりさん。本当は見かけたではなく声をかけて玉砕しているのだが、そんなことは気にしない。過去は振り返らない主義である。
「っかし・・・そっくり、だよなぁ」
 そっくりなのだ。本人そのままと言ってもおかしくない。あの少女を男にしたような。
 いやいやまさかそんなことが起こるわけがない。
 ゼロスはぶんぶんと頭を振って、それからもう一度まじまじと青年を見つめる。肩を通ってきた三つ編みを引っ張ってみた。
 別に嫌がらせというわけではない。ただ隠されている瞳が見たくなった、それだけ。
「・・・ん、」
「おはよーさん、ハニー」
 つん、という刺激に目が開く。太陽を受けて眩しそうに細められた薄氷のような瞳に、やっぱり既視感。
 そっくりさんにもほどがあるだろう。その瞳をのぞき込むようにして笑って挨拶する。しばし無言でゼロスを見つめていたヴェイグは、
「・・・だからそれは、人違い、」
 ぽつりとそれだけ呟いて、再び瞼を下ろした。
 ゼロスの笑顔が固まる。今なんか、聞いたことある台詞を言わなかったか、この子。
 そういえば年下だっけと頭の片隅で思った。とりあえず、この服をひっぺがして女の子用の服を着せればいいんじゃないか。
 ついぶっ飛んだことを考えてしまったゼロスの耳に、少年の高い声が届いた。
「ヴェイグー!おっはよー!」
「・・・マオ?おはよう」
 元気な挨拶とともに飛びついてきた少年に流石に目が覚めたのか、ヴェイグは瞬いた後挨拶を返した。
 それから隣のゼロスに気づいて、首を傾げる。
 ゼロス?なにかあったのか?
 普段男には自分から近づこうとしない(といわれている)青年が目の前にいる。
 首のあたりにしがみついたままのマオを緩く抱き返してやりながら、ヴェイグは黙ったままのゼロスを見つめた。二人はしばし見つめ合い、それからゼロスがにやりと笑う。
 少年、ちょっとそこ邪魔。
 言ってマオをひっぺがし。
「オレ様、アンタに惚れちゃったみたいだわ」
「・・・は?」
 理解する前に前髪を上げ、額にキスをプレゼント。
 男だって構わない。愛の前には無意味ってね。反応のないヴェイグにひらひらと手を振る。
 マオがなにか騒いだけれど、聞こえないフリをした。というか聞く気もない。
 後方から飛んできた火の玉を見もせずに避けてみせて、ゼロスは甲板を後にした。

目覚める

(ヴェイグ、ゼロスには近づいちゃダメだヨ!)
(あ、ああ・・・)

  

ほんとは穢れ流しの儀式捏造について書く予定でした
いつのまにかただのゼロスくん新しいものに目覚めるの巻みたいになりました←
そんなわけでゼロ→ヴェイ
うちのマオはヴェイグが大好きです。見ればわかるけどw
べたべたしたい子。ヴェイグもマオに対しては結構甘い感じ。なんというか、慣れてる?w
マイソロ2において神子にどの程度の役割があるのかわからないんですが、ディセンダーの光がどうとかいろいろわかってたからそれなりってことで。ただしゼロスくんは神子の務めにあんまり熱心じゃないとかそんなつっこみはなしの方向で
もうみんながみんなヴェイグ大好きだといいよねって話です(え)
100903
加筆修正 120719