Eisblumelein:


「負を流す儀式?」
 穢れ流し。アニーの依頼でガレット村に行くことになったとき、そんなことを聞いたような気がする。
 たしか年に一度、世界の負をセルシウスを通して世界樹に流すというもの。恐らくは村に近い人物か、相当学の深い識者しか知らないであろう儀式だ。
「それとヴェイグが女になるのとなんの関係があるんだよ?」
 ふふーん、とマオがちょっと得意げに笑う。
 聞いて驚け!
「ヴェイグは巫女さんなんだヨ」
「・・・巫女?」
 なんだか漢字変換がおかしくないか?と親指を立てたマオに首を傾げる。おかしくないヨ!と続けたマオによれば、どうやらその儀式でヴェイグが女装して踊るのだという。いろいろ大事な部分が端折られている気がするが。
 それだけでは単なるお遊びにしか聞こえない。あの性格でお遊びってことはないだろう。
「で?」
 また見たくなったとかそんな理由じゃねぇだろうな。
 跳ねるように歩くマオに後ろから問いかける。途端にくるりと振り向いたマオの頬は不満げに膨れていた。
 またじゃないの、まだなの!まだ?
「ボクがユージーンに拾われたときにはもうセルシウスは変になっちゃってたんだもん」
「・・・っつーことは、本来見れるはずだった儀式を見れない腹いせ、ってことか?」
「腹いせじゃないヨ!ユーリだって見たかったもん絶対!」
 どんな理由だよ、と内心つっこむ。口に出すとうるさそうだからやめておいた。
 大体たまたま部屋の前でぶつからなければ今回この展開は有り得なかったのだ。
 数回ディセンダーに付き合ってクエストで一緒になったことはあるものの、これといって懇意にしていたわけではない。自分から首を突っ込もうとは思わなかっただろう。
 だから見たかったと言われても、頷こうという気にはなれない。少なくともあの時点では。
「じゃあ、今は?」
 今。この時点で。
 すでにヴェイグは性転換しているわけだから、この仮定はそもそもおかしいのだが。もしこの時点でヴェイグが男のままで、その姿を見たいかと問われたら。
 揺れる白銀の髪だったり、控えめな態度だったり、口ほどにものを言う薄青い瞳だったり、・・・まあ見たくないといえば嘘になる、かもしれない。
 ちょっと待て、なんで女になったヴェイグが見たいんだ。ぶつかった疑問に、ユーリは思わず足を止める。
 男である彼と今の彼・・・彼女の姿(ユーリにとっては後者のイメージが強いのだが)がくるくると交互に浮かんだ。
「やっぱり!」
 混乱を極めた頭の中を整理しようとしているユーリに、マオが得意げに告げる。ぱん、と手まで打つ始末。
 その少年の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。やめてヨ!と非難するマオに溜飲を下げた。
 大人げない?そんなことはどうでもいい。
 ユーリはしばらく黙ってろ、とマオに言いおいて、再び思考の海に沈んだ。
 初めて会ったときのこと、クエストに出たときのこと、ちょっとした事故で腕の中に飛び込んできたときのこと。順番に思い出して、自分の感情の変化を整理する。
「わかった!」
 声を上げたのはユーリではなくてマオ。嬉々とした、けれど少々不満げな顔で、少年はユーリを見上げる。
 腕を引いてユーリの耳に顔を寄せると、
「ユーリって、ヴェイグのこと好きでしょ?」
 大きな爆弾を一つ落とした。
 待て、ちょっと待て。思わず思考停止に陥ったユーリは、けれど唐突に理解した。
 中途半端な位置に浮いていた青年への感情が、すとんと収まる。
 元々知らないなりに好意的に見ていたところもある。放っておけないと思ったのもある。けれど突然走り去ってしまったときのあの焦燥感。見つけたときの安堵感。それから何事もなかったかのように用件を聞いてきたときのちょっとした苛立ちと。
 感情をつなげたら、それは一つの答えを弾きだした。大きく溜息をついたユーリを、マオが見上げる。
「当たらなかった?・・・っイタ!」
 ユーリは大きな赤い瞳をちらりと見返した。それからぼすん、と同じく赤い頭に手を乗せ、ぐりぐりと力を入れる。
 思わず声を上げたマオを置いて歩を進め、後ろに返答を投げる。
「ま、当たりだよ」
 ほら!
 駆け寄って得意げに言ってくるマオに適当に返しながら、ユーリはもう一度溜息をついた。

自覚

(あ、そうだ!)
(なんだよ?)
(ヴェイグは渡さないからネ!)
(・・・さぁな)

  

マオが言うのはお兄ちゃんは渡さない的なそういう意味です。そんな自覚編
ユーリさんはどっちかというと自分で気づいて行動を起こすタイプな気がするんだけど、穢れ流しの俺設定を文中で書いとこうと思ったらいつの間にかこんな話になってました
ていうかこの設定がなんか痛いw
100928

ほんとうに恐ろしく痛い設定ですねすいません←
でもこれがないとユーリさんが中途半端なのでそのままのせる!w
加筆修正 121001