「それはユーリが悪い」
まったく暗い表情の親友を受け入れて一時間ほど。
なにがあったんだい?と尋ねたフレンに、ユーリは所々掻い摘んでわけを話した。聞くだけ聞いた、フレンの第一声がこれである。
なんでだよ、とは大っぴらに言えず、視線だけでユーリは理由を問う。フレンは溜息をついて、
「考えてもみなよ。ヴェイグがそんなことで差別するような人間に見えるかい?ユーリのことだから自分が男であるヴェイグが好きなのか女であるヴェイグが好きなのかわからなくなって息詰まって思わず告白したんだろうけど、」
「なんでわかるんだよおまえ・・・」
フレンはつらつらと淀みなく話す。
その断定形の話し方と明らかにユーリが悪いのだと主張する目に返す言葉をなくしつつ、ユーリは小さく呟いた。
フレンはその言葉に笑みを浮かべる。君はわかりやすいからね、と続けた。
わかりやすい、んだろうか。強いヤツと戦うのは好きだ。そういう戦闘狂(とは自分では思っていないのだが)の類に関してはわかりやすいという自覚はある。けれどその他のことでわかりやすいと言われたことはなかった。
幼なじみだからなのか、それとも今まで口に出して言われなかっただけなのか。どちらにせよフレンには勝てる気がしない。
「それで、君はヴェイグのどこが好きなんだい?かわいい顔?それとも胸とかそういうところなのかい?」
「んなわけねえだろ」
今度は間髪入れずに返す。
そんな理由で好きならとっくに諦めはついている。外見の影響がないとはいわないが、ぱっと見で一目惚れするような歳ではない。
もし間違ってそれがきっかけだとしても、これだけ一緒に過ごしてから告白する上で好きなのが外見だけだなんてあり得ない。それが一番になんてなるはずがない。
心なしか不機嫌になっているユーリに、けれどフレンは動じることなく。
「ほら。それならもう答えは出ているはずだよ。好きなのは女だからじゃない、だろう?なのに彼がまだ彼女の状態でそんなことを言えば、ヴェイグが戸惑うのも当たり前じゃないか。仮にヴェイグが君のことを好きだったとして」
「仮にってなんだよ」
「仮にだよ。真実はどうあれ今の時点で拒絶されているのは間違いないんだから」
ぐ、と息詰まる。
たしかにヴェイグは嘘であれと願った。それが本心かどうかはわからないけれど。とにかく拒絶したのは間違いない、のだ。
改めて思うとまた暗い気分になる。はあ、と溜息を一つ。
目に見えてダメージを受けているユーリにフレンは苦笑混じりに、それでも続けた。
「だったとしても、今は身体だけとはいえ女性の状態だろう。それで好きだと言われても、女であるから好きなのかもしれないと考えてもおかしくはないよ。むしろそっちの方が一般的に考えれば普通だ。だから元に戻ったときユーリの思いがどう変わるかわからない。そう思ったら、素直に受け入れられるはずないだろう?」
「そりゃあ、まあ」
納得したような、していないような。
そんな表情でいるユーリに、フレンは小さく笑う。その笑みは、先ほどよりも少々意地の悪い笑み。
ユーリ以外には見せたことのないような、彼らしくないものだった。
「・・・まあ、もしかしたらほんとうに答えに困っただけかもしれないけれどね。今頃どうやったら君を傷つけずに断れるか考えているかもしれないよ」
おまえ、なあ・・・。
その顔他のヤツにはするなよ、とげんなりした顔でユーリが返す。フレンはあはは、と笑みを元に戻して軽く笑った。
それからユーリの肩を叩いて、
「ほんとうのところはヴェイグにしかわからないさ。とりあえず、明日は心配させる前に戻りなよ」
「・・・わかってる」
今はしょうがないけど、これじゃあますますヴェイグを不安にさせるだけだよ。
言われて、ユーリは真剣に頷いた。悪循環になることだけは避けたい。
いっそ男に戻ったのを確認してからもう一度告白・・・、とどうも混乱した頭で考えているユーリが、ふと思い当たった。
「・・・てかおまえ、ヴェイグが元々男だったこと知ってたっけ?」
ヴェイグのためにも、そこは伏せようとしていたはずなのだ。内容が内容なだけに不可解な顔をするだろうとは思っていたけれど。
話したのはヴェイグが好きなことと、拒絶にも似た言葉と、かっとなった告白。そして恐らく、本当の拒絶。
フレンが悩むこともなく語ってきたから勢いに飲まれたが、よく考えるとちょっとおかしい。
「ヴェイグが話してくれたよ」
「・・・てことは、あの髪飾り・・・」
あっさりとバラしたフレンに、ユーリは考えを巡らせる。
なんで、バラしたんだ?もう会わないと思ったからか、それともフレンに絆された?いくらこいつの人当たりがよくてもそんなことをあっさり話すような性格じゃ・・・。
フレンがユーリの親友だから話したという本当の理由には思い当たらない。
親友の考えが大体読めるらしいフレンがやっぱり小さく笑った。それには気づかず、気づいたのは別のこと。
フレンとともに帰ってきたヴェイグがつけていた髪飾り。動くたびにしゃらりと鳴って、柄にもなく見とれたのを覚えている。
ヴェイグが元は男であることを、フレンが知っていたとすれば。知らないで贈ったわけじゃない、のか?
「知ってて贈った。似合っていたし、いいじゃないか」
「いやいいけど・・・」
王子様スマイルで言ってのけたフレンにそれだけ返して、ユーリは知らず眉を寄せた。
こんなところに伏兵がいた、か?
なんだか話したのは失敗だったような気がする。フレンがそういう意味で贈ったのかただの好意なのかわからないが、それを聞く気にはなれない。そういえばさっき「かわいい顔」って言わなかったかこいつ。
小さく唸ったユーリを見やると、フレンは小さく呟いた。
「まったく・・・ヴェイグが誰を好きかなんて、すぐにわかることなのにな」
幸か不幸か、考えに耽っているユーリにその声が届くことはなかったけれど。
(ん?なんか言ったか?)
(別になにも)
ユーリをぼこぼこにしてみた。口でw
親友っていいなぁと。台詞を先に書いたので間の地の文がちょっと蛇足っぽい雰囲気になってますが
ユーリさんはフレンに対してだけすごくわかりやすいといい。フレンもまたしかり。けどどっちかというとフレンのほうが立場が強い感じで
髪飾りを当てつけにするか本当に純粋な好意かでちょっと迷ってます。けど片思いで失恋って決まってるのもちょっとかわいそうな気がするというか・・・
そこをあえて書く必要はないのに明示するのもそれこそ蛇足的な感じかな、と思ったのでわかりづらくしてみた。お好きな方でどうぞ
101210
加筆修正 121101