Eisblumelein:


 ユーリとレイヴンが大金を手にしてくるという噂がいつのまにか広まったカフェ。
 普段から言葉を交わし、交遊のある者たちが集まっていた。
 大金とはいくらなのか。それはわからないが、大金というからにはおこぼれに預かることくらいはできるはずだ。
 そんな考えで、水だけを頼んで二人の帰還を待つ。カフェのマスターが、呆れたように肩を竦めた。
 そんな中開いた扉。
「あーあ・・・・」
 溜息のようなものを漏らしながら、レイヴンが階段を下りてくる。後ろにはユーリの姿もある。
 常連の彼らのために空けられている席につくやいなや、知人たちはわっと周りに集まった。
 中にはただの野次馬もいるがそこはご愛敬である。貧しいわけでもないがこれといって裕福なわけでもない庶民にとって、大金は一生に見るか見ないかという希少なもの。
 とにかく一目見ようという、その行為に。
「・・・」
 いつもはへらへらと笑っているレイヴンが、冷たいともいえる視線を返す。
 滅多に本当の感情を見せない彼が、不機嫌を見せた。なにかあったのか、という視線を一斉に受けて、同じく少々不機嫌なユーリは溜息をついた。
 エステルがおずおずと近づいて二人に水を出す。レイヴンがグラスを握って、一息に飲み干した。
「・・・入ってなかったんだよ」
 ?
 ユーリの言葉に客はおろか店員まで、一様に疑問を浮かべた。
 隣のレイヴンはユーリの分の水まで飲み干して、嬢ちゃん水!とエステルを呼びつけている。
 まるで酔っぱらいだな、と横目で見ながら、ユーリは続けた。
「仕事自体はうまくいった。でも、金庫の中にはなんも入ってなかった。入ってたのはこれだけだ」
 テーブルの上に成果を投げ置く。札束が二つ三つ。
 なにも、というのは言い過ぎだけれど、大金とも言えない、言葉通り「それなりの」金である。
 少々がっかりした顔を見せる知人たちに、ユーリは小さく肩を竦める。再び運ばれた水を飲み干したレイヴンが、札束を店長に向けて放り投げた。
「朝まで飲むわよ」
 半分目が据わった状態の悪友の言葉に、ユーリはしばしの後にやりと笑う。
 確かに望んでいたほどの金はなかったけれど、カフェでどんちゃん騒ぎをするだけの余裕はある。一晩で使いきるには結構な金だった。
 ユーリは一応もう一人の許可が下りるのを待っているらしい店長に向けて頷いて見せて、立ち上がる。
「今日は俺らのおごりだ!さあ飲め貧乏人ども!」
 半ば自棄であることは否定しない。こんなときは飲んで騒いで忘れるしかない。
 幸い、ストレスを発散するだけの資金はあるのだから。
 ユーリの言葉に盛り上がった知人やら他人やらにグラスを回しながら、ユーリはすでにできあがっているかのようなレイヴンに苦笑した。
「・・・・」
 程良く酔いが回ってきた客の中に、朝にも訪れた浮浪者が混じっている。
 一人の店員が彼を中に入れないようにとどめていた。朝の店員とはまた違う男だ。
 見つけたユーリが浮浪者に近づく。騒ぎに引かれて寄ってきたのだろう。
 これまた朝と同じく金はあんのかい?という問いにその日暮らしの男が答えられるはずもなく。じゃあ帰った帰った!と追い立てるところを、ユーリが止める。
「いいぜ、どうせオレたちの金だ。飲んでけよ、おっさん」
 正確には詐欺で手に入れた金であるからオレたちの、ではないのだが。
 どうせ誰も彼も隣が誰かわからないくらいには飲むのだから、浮浪者が混ざってようと問題はない。
 そもそもこの町の人間は浮浪者がいるから酔いが醒める、なんてか細い神経しちゃいないのだし。
 すでに瓶のまま回っているビールを浮浪者に放り投げる。器用に受け取った男は、感謝を示すかのように瓶を掲げて見せた。

どんちゃん騒ぎ

(せいねーん!さけ!)
(・・・既にできあがってるじゃねーか・・・)

  

どうやって大金を手に入れるとかは全然考えてませんw
大金らしいぜ!ってただそれだけで集まってきた町の人
けど町の人図太そうだから犯罪ぎりぎりまでおっけーとか考えてるんじゃないかと
舞台設定ではふつうの町でしたがこっちの設定ではむしろ下町(笑)
130402