「警察だ。少し話を聞かせてほしい」
警 察
その単語に、二人は顔を見合わせる。頭の中を詐欺の一件が駆け巡った。
レイヴンがすごい勢いで荷物をまとめ始める。
ここまできたら仕方ないだろうよ、とそれを弊睨し、ユーリはドアを開けた。
うわ、ちょ、青年!なんて騒いでいるのは無視する。
「なんか用か?」
「すまない、この顔に見覚えはないか」
黒髪の男が持っている写真に、ユーリは目を見開いた。
入り口で追い返そうと思っていたのをやめて、中に招き入れる。失礼、と礼儀正しく一礼してから部屋に入る上司であろう金髪の男が、大きな鞄を見て眉を寄せた。
「・・・旅行にでも行くのか」
「うぇっ?そうそう、そーなのよー」
へらへら笑ってごまかしに入ったレイヴンに、黒髪が詰め寄ってなにか話している。
それを呆れた溜息を落として受け流すと、ミルハウストと名乗った刑事はユーリに再び写真を見せた。
見覚えは?
「この男の関係者に、君の父親がいるはずなのだが」
「・・・人違い、だ」
見せられた写真と質問に対して、ユーリは真剣に答える。ミルハウストが怪訝そうに眉を顰めた。
自分の名前はユーリで、フレンではないこと。自分も新聞の尋ね人の欄を見て驚いたこと。これに関しては嘘をつくまでもなく、本当に他人の空似である。
あんまり似てたから間違えられたんだろ。
そう続けて、内心ヴェイグのことが知られていないことに安堵した。
で、その父親の名前は?
逆に尋ねると、それは個人情報だと断られる。ユーリは鼻で笑って、
「こっちは人違いで殺されかけたんだぜ。そのくらい聞いてもいいだろ」
「・・・ユージーン、だ」
殺されかけた、は少々誇張した表現だが、まあ間違いではない。
ミルハウストはそれに気づいているのか長い溜息をつく。どうやら腹をくくることに決めたらしい。
未だに騒いでいるもう一人の刑事を一喝し、写真を放り投げた。慌てて拾いに走るのを後目に、壁に寄りかかる。
アレクセイとユージーンは、その道のプロと言われる男たちであったこと。
16年前、現金を載せていた列車強盗事件があったこと。二人はその事件の犯人グループの一味だと言うこと。
ユージーンの行方はまったくわからず、アレクセイについては別の事件の捜査中に犯人だとわかったこと。
「別の事件ってのは?」
「殺人だ」
ミルハウストは簡潔に答える。うえ、と嫌そうな顔をしたのはレイヴンだった。
これはまずいわよ、青年!とユーリの肩を掴む。
強盗と殺人を起こした男を騙して逃げてきたわけだから、まずくないわけがない。見つかれば下手したら殺される可能性もある。
ミルハウストも、それに関しては賛成らしい。頷いてみせた。
そうだな、しばらくは町を離れた方が無難だろう。
「荷物はまとめられているみたいだしな!」
なぜか得意げに胸を張ったギンナルに、レイヴンが嫌そうな顔をする。
けれどそれどころではないのは理解しているようで。様々なものが詰め込まれた鞄をひっつかみ、ユーリを見やった。
ユーリはその視線を受けてなお黙り込んでいる。
今ここで逃げれば、自分たちは助かるだろう。いや追いかけられて助からないかもしれないが。それでもここに留まるよりは状況はいい。
けれど。
「ヴェイグを置いていくわけにはいかないだろ」
「そんなことにかまってる場合じゃないでしょーが」
彼は他人だ。アレクセイと間接でも関係があるのは彼だけだ。自分たちは本来無関係である。だったらかわいそうだが置いていった方が安全性が高まる。
こういう部分でレイヴンは状況をよく見ている。
冷たいとも思える考え方だが、間違いではない。それでも見捨てることはできない。
ユーリはレイヴンを見やり、奥の手を使うことにした。
「あの子金持ってるぞ」
「いくら?」
ぴくりと眉を動かして、レイヴンが尋ねる。
さすがに5億なんて金はないが、
「結構なたいき「なにしてんの青年さっさと行くわよ!」
態度を一変させたレイヴンに苦笑して、けれどユーリは頷いた。
(けれど、置いてはいけない)
ユージーンごめんwいつも思うけど名前だけ使ってる感がすごいです
ユージーンがヴェイグのお父さんというこの違和感!←
とりあえず状況説明回です。ミルハウストは今後あんまり出てこない
130908