「・・・アンタ、」
ユーリが怪訝そうに眉を顰めた。それに答えることはせず浮浪者は踵を返す。
状況が飲み込めないまま、ユーリはヴェイグの腕を引いた。
いざとなったら窓でも割るかと思っていたのだ。ふつうに逃げられるならそれに越したことはない。
けれど、そううまくいくことはないらしい。
「動かないでもらおうか」
入り口から声がして、アレクセイが姿を見せた。
銃を構えている。浮浪者が足を止めて、何事か呟いた。なにを言ったかはユーリのところまでは届かなかったけれど。
アレクセイはユーリたちには見向きもせずに、浮浪者に歩み寄った。
銃口が向けられているのも、彼一人。
「店になだれ込んできたときはまさかと思ったよ」
そうだろう、ユージーン?
続けたアレクセイに、ユーリは眉を寄せる。隣のヴェイグが目を見開いた。
それは、彼の父親の名。
浮浪者は深い息をついて、帽子をとった。
「もしも浮浪者がお前なら、いつか助けに来ると思ったよ」
「二人を解放しろ。この二人は無関係だろう」
ここに君が来るまでは確信が持てなかったがね。
アレクセイの言葉を受け流し、ユージーンは言う。アレクセイは鼻で笑った。
君が裏切り逃げたおかげで、作戦がぶちこわしになった。金も手に入れられなかった。分け前をもらうのは当然のことだ。
残念だが、いい答えがもらえるまでは二人を解放するつもりはない。
アレクセイはそこまで口にして、銃口を素早くユーリたちに向けた。隙は感じられない。
ユージーンはちらりと二人を見やると、重い口を開いた。
「裏切ってなどいない。一度は警察の目を逃れるために身を隠したんだ。だが仲間と離れた後襲われるようになって、誰かがが裏切ったと思った」
そんなことは信じたくなかった。彼はそんな苦い顔をしていた。
しかし、誰かに裏切られたとしか考えられなかった。そうでなければ突然襲われるようになるなんて考えられない。
その最中、戦争が起こった。その間誰にも行方を知らせることなく身を隠した。
多くの人が死んだ。裏切ったかもしれない仲間も。
「戦争が終わると二人しか残らず、お前が裏切ったのだと思ったんだ」
「金は!?」
ユージーンの訥々とした語りを聞くうちに、アレクセイの表情が歪んでいく。声を荒げたのに合わせて銃口が揺らいだ。
思わぬ話に動揺が隠せないのだろう。ユージーンはそれを微動だにせず受け止めて、静かに言った。
お前も見ただろう。
「金は、彼がカフェで酒に使ったもの」
「なん、だと・・・」
「当時の20万は軍隊が買えるほどの金だがな」
今やカフェで一晩飲み、騒いだだけでなくなる端金だ。
続けて、ユージーンは口の端に苦い笑みを刻んだ。
戦争で貨幣価値が暴落し、こんな金額になってしまった。戦争が起こるとは思っていなかった。
戦争さえ起こらなければ。言ったところでどうなるものでもない。
裏切りがあったのかなかったのか、今となってはわからない。そしてそんなことは、関係のない話だ。
銃口がさらに揺れる。
なぜだ、とアレクセイが小さくもらした。
(ただ、黙ってみていることしかできない)
(不安げな青年の手を握った)
そろそろ転くらいです、・・・よね?←
アレクセイとはれるのはユージーンくらいしかいないと思ったんだ
ミルハウストもいけそうだけど、個人的にヴェイグのお父さんをミルハウストにはできなかった
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