Eisblumelein:


「・・・それじゃあ」
 列車の発車が近く、いつも以上に賑やかな駅のホームで、二人は向き合った。
「なにかあったら来いよ」
「でもまた・・・っ」
 結局心配な気持ちは意思で抑えられるものでもなく、ユーリは再びその言葉を口にする。対してヴェイグが先程とは異なる反応を返して、ユーリはわずかに眉を寄せた。
 ヴェイグはヴェイグで、途中ではっと口を噤む。
 言いづらいことでもあるのか、この反応は来ること自体を・・・ユーリに会うこと事態を拒否しているものではない。短いつきあいだがそれくらいはわかる。
 なんだよ、と尋ねても視線を逸らすだけで。仕方がないので思いつく限りを述べてみることにした。
「嘘ついてたことか、だまして金を横取りしたこと?それとも女か」
「・・・っ!」
 改めて言葉にすると最低だな、なんて思いながら言葉を重ねる。女、と言った瞬間にヴェイグの肩が跳ねた。
 これか、と思った。
 つまりなにか用事ができてユーリの元を訪れたとき、再びあの時のようなことがあったら困ると、そういうわけだ。
 それなら問題はない。もうジゴロはやめると決めた。
 曲がりなりにもユージーンにヴェイグを任されているし、任されていなかったとしても、続けることはできないだろう。
 不毛だし、いつまでもこうして生きていくわけにもいかない。それに、ジゴロなんてのは思う相手がいないからできる職業であるから、ユーリはすでに条件に反している。
「あんなことはもう」
「ユーリ!探してたのよ!」
 ない、と断言するはずが、甲高い女の声が被さって、ユーリの言葉は中途半端なまま消えた。
 誰だ、なんて思う間もなく荷物を持つ手と反対の腕に絡みつく細い腕。少し前に、新しいお気に入りができたからとユーリを捨てた女である。
 二人の間に漂っていた空気に気づくことなく、彼女はあのときの男がどれだけつまらない男だったかを早口で語り出した。最終的な結論は、「ねえ戻ってきてよ」である。
 慌ててヴェイグを見ると、ヴェイグはなにも言わずに目を伏せた。
 それが失望を映しているように見えて、ユーリは静かに口を開く。
「離れろ」
「なに拗ねてるのよ」
「いいから離れろよ」
 ひどく冷たい声が出たけれど、彼女が気にする様子はない。拗ねている、とは随分上から目線である。
 結局顔しか見てないんだよな、とは口にすることなく、ユーリは同じ言葉を繰り返した。兄でないことがわかっても同じように接した、ヴェイグとは違う。
 ねえユーリ、なんて甘い声で言葉を重ねてくる女への対応を考える前に、構内に大きな音が響いた。
 列車の発車を告げる、ベル。それを認識したと同時に、ヴェイグが踵を返した。
「待てよ、ヴェイグ!荷物!」
 このままでは行ってしまう。
 ユーリは力で女の腕を振り払い、半ば走るような勢いのヴェイグに声をかける。彼の荷物はまだユーリの手の中にあった。
 ヴェイグは迷う素振りを見せてから、差し出された荷物の取っ手を掴む。
 最後まで目を合わせようとしないヴェイグに、ユーリは思わず手に力を入れた。ぐっと荷物が引かれてヴェイグの足が止まる。
 ヴェイグが反射的にユーリを見やった。その青をまっすぐ見つめたまま、ユーリは口を開く。
 今言わなければチャンスはない。このまま行かせてしまったら、きっとヴェイグはもう目の前には現れない。
「好きだ」
「・・・!」
 おまえが好きだ、ともう一度繰り返す。
 ヴェイグが大きく目を見開いて、言葉を失う。戸惑っているのだろう彼に向かって、ユーリは続けた。
「悪いけどこれが今のオレだ。オレはジゴロで、文無しで宿なしで、でもな、お前のためなら・・・っ!」
 引き合っていた力が突然緩んだ。
 反対に知らず力を入れていたユーリが強くそれを引き、ヴェイグが飛び込んでくる。
 迷うことなくそれを受け止めて、空いた手でヴェイグを抱きしめる。ヴェイグの腕が背中に回るのを感じて、事故ではないんだな、なんて柄にもなく思った。
 列車が発車する音が聞こえる。
 呆然と成り行きを見守っていた女が、苦笑して肩を竦めたのが見えた。

終わりと始まり

(ってわけだから、他のやつ当たってくれ)
(あんなドラマ見せられちゃね)
(・・・ッ!?)
(もしかして忘れてたのか・・・)

  

とりあえず書ききった!
いろいろとキャラ設定に無理があってすみません
ユーリさんがいつもより二割り増しがっかりでヴェイグが三割り増し天然でお送りしております←
シナリオ上変えられないところもあったので違和感は流していただけると・・・
あと宝塚ではできたことがどうしても二人ではできないようなところは変えました。恥ずかしいんだよw
ユージーンがナチュラルにお父さんだったりフレンが最初から死んじゃってる設定だったりユーリとフレンがそっくりだったり想像すると明らかにおかしいんだけどお名前だけ拝借ということで
一番性格的にあってるのはおっさんでした。むしろおっさんが書きたかったといっても過言ではないですw
何度も言いますが諸々のいろんな問題は華麗にスルーの方向で。これは夢の世界のお話です(笑)
120523
140706 加筆修正