花氷*


「・・・しつこい」

ぽつり、呟いた言葉も彼には届かなかったようで。ヴェイグは今度こそ目に見えて顔を歪めた。

「いいだろ、ヴェイグ!」

それを気にすることもなく、ティトレイが言い募る。別にヴェイグの心が狭いわけではなく、ただくだらないことだった。

そしてヴェイグは断ったのだ。それなのに、いつまでも食い下がってくる。

食堂で皿の上に半分ほどピーチパイを残しながら、向かいから身を乗り出してくるティトレイを睨む。

ほとんどの場合睨みつければ引き下がるのだが、相手がティトレイではそうはいかない。幼なじみなだけあって耐性があるらしい。

「なあヴェイグ!」

大事な時間を邪魔しないでほしいのだ。今でなければそれくらいのこと聞いてもいいのに。

いっそ氷漬けにしてやろうかと思ったが、ロックスやクレアに迷惑がかかるのでやめておく。

こんな状態でピーチパイを食べたっておいしくないし、ピーチパイにも、作ってくれたロックスにも失礼だ。一旦食べるのを諦めるべきだろうか。

そんなことを考えていた矢先。

「ヴェイグ?まだ食い終わってなかったのかよ?」

ひょい、と食堂をのぞき込んだヒスイが二人を見やった。

そうだ、これを食べ終えたらクエストに出る予定だったのだ。遅いから、見に来たのだろうか。

すまない、と口を開く前に、ヒスイは呆れたような溜息をついた。

つかつかとテーブルに近づき、

「いってぇッ!?なにすんだよ、ヒスイ!」

「邪魔してんじゃねぇよテメエは」

食堂の外まで聞こえてんだよ声が

ごん、と容赦なく拳骨を落としたヒスイが、涙目になっているティトレイに告げた。

普段からシング相手に鍛えているだけあって、後方支援系といえども結構な力があるらしい。もちろんティトレイの油断もあるだろうが。

「なにがしたいのかは知らねえが、これ以上邪魔すんなら吹き飛ばすぞ」

あぁ?とどこぞの不良貴族のように凄むと同時にゲイルアークを構えてみせる。

げ、と一言漏らし、ティトレイは立ち上がった。

この距離で当てられたらたとえ本気じゃなくてもやばい。そしてこういうときのヒスイは、大抵容赦がないのだ。

「また後でくるからな!」

捨て台詞のように残したティトレイが食堂を出ていくのを見送ってから、ヒスイは再び溜息をついた。

「・・・ありがとう、助かった」

「いいから、早く食えよ」

「ああ」

まったく・・・

ぶつぶつ言いながら頬杖をついたヒスイに、ヴェイグは小さく笑った。

非常口

(いざというとき頼る人)

  

  

歳が変わんなくてもお兄ちゃんはお兄ちゃん
わたしはヒスイに夢を見ています←
ティトレイを出したのには特に意味はない
ヴェイグに遠慮なくいろんなことできるのはやっぱりティトレイかなと思ったので。ピーチパイタイム大事(笑)
ほんとはヒスイのところに行こうかと思ったけど、皿とフォーク持って船内を闊歩するヴェイグさんがかわいかったのでやめときましたw
110831